関西大学 人間健康学部

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少子化と性別役割分業観

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 わが国は世界に類のないスピードで少子高齢化が進行しており、2008年以降は、人口減少社会になっている。先ごろ、「日本創生会議人口減少問題検討分科会」が「人口減少よって、2040年には、全国1800市区町村の半分の存続が難しい」という予測を発表して話題となった。全国の約半分の市区町村で、20代から30代の女性が50%以上減少し、合計特殊出生率が上昇したとしても自治体が消滅する可能性があるという指摘である。この傾向はいわゆる過疎地域だけの問題ではなく、大都市圏の一部においても見られるという。

 政府による少子化対策は、1990年の「1.57ショック」が契機になって取り組みが始まった。それは、合計特殊出生率が丙午の1966年の1.58を割り込んだことによる衝撃であり、わが国の少子化現象が一時的なものではないことを社会に認識させた。その後も合計特殊出生率は低下を続けていたが、最近は横ばいから微増状態となっている。

 出生率低下の直接的要因は、未婚化と晩婚化である。つまり、結婚しない、できない人たちが増加していること、初婚年齢が上昇していることにある。問題は、なぜ未婚化と晩婚化が進行しているか、その背景にある経済、社会、文化的な要因である。経済的側面からは若い世代の所得の減少、特に低所得の非正規雇用者の増加が挙げられる。また、「パラサイト・シングル」という言葉に示されるように、親世帯と同居して基本的生活を依存し、気楽な生活をする独身者の存在なども未婚化を促す要因とされる。

 最近、社会的問題となったことの一つに「都議会でのヤジ」がある。都議会で妊娠や出産に関する女性への支援について質問している女性議員に、女性蔑視的ヤジが発せられたというものである。この件については、世界中から非難があったということだが、ヤジ事件の背景には、日本社会で根深い伝統的性別役割分業観があるのではないだろうか。

「男は働き、女は家庭」という性別役割分業観は表向きには減少しているようだが、実際には多くの場において見られる。この意識がわが国の未婚率の増加の背景にもある。わが国の出生率を上げるには、少子化対策の充実とともに、日本社会に深くはびこる性別役割分業観を変革する必要がある。