関西大学 人間健康学部

お知らせNews

子どもの人権と福祉

  • ■日時

 熊本市に、慈恵病院という病院があります。ここに、2007年、「こうのとりのゆりかご」と呼ばれる、赤ちゃんを一時的に「預かる」窓口ができました。約5年間で、約90人の子どもたちがここを利用したそうです。

 現在、日本では、ここ数年、年間50人前後の子どもが、虐待で命を落としています。その多くは、0歳児であるという報告がなされています。病院関係者は、このことに心を痛められ、子どもの命を一人でも救いたいという思いから、「親が自分の名前を名乗らずとも預けることのできること」にこだわって運用されています。

 一方、保護者が名前を名乗らなければ、親のことを知りたいと思ったときに、その手がかりがなくなることに懸念をもった人たちもいます。本当に命を救う仕組みなのか、むしろ、殺したくない人が利用するのではないかという声もあります。現に、運用が開始されて以降も、虐待死数はほとんど変化していません。

 私は、人権・権利視点で、子どもの福祉研究や実践をしています。虐待は人権侵害のもっとも典型的な例です。しかし、人権はもっと広い意味をもっています。子どもらしくのびのびと生きることができにくい社会、子育てに十分に向き合うことのできない親の状況も、健やかな育ちを侵害するという意味では、やはり子どもの人権問題なのです。

 子どもの人権・権利侵害を少しでも減らしていくためには、子どもにのみ関心をもつのではなく、そのような状況を生じさせている社会や家庭のありようにまで関心をもつ必要があります。たとえば、親を責めるのではなく、親が心身ともに気持ちよく生活できる環境を作るといった視点です。

 幸い、人間健康学部には、社会福祉の専門家以外にも、身体の健康の研究・実践に取り組んでおられるもの、笑いやダンス等を通じて、心の健康や自己実現に向けての研究をしておられるものなど、多彩な人材が揃っています。私も、学際的視点を大切にしつつ、子どもの福祉のことを考え続けていきたいと考えています。