関西大学 人間健康学部

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科学と実感

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負のスパイラルに陥っている。私自身のことだ。首と腰の痛みが酷い。若い頃の無理がたたって頸椎と腰椎がぼろぼろなのだ。本学部の開設に向けて多忙を極めたここ数年で、長らく継続してきたトレーニングの習慣が途絶えた。徐々に筋力は低下し、古傷の痛みは増した。「これではいけない」と、堺キャンパスにお目見えしたジムに通いだしたが、すでに昔のようなヘビーデューティーに耐えられる身体ではなかったようだ。すぐに悪化...。ならば、と今流行りのウォーキングを試みたが、10分も歩くと下肢にしびれが出る。「負けるもんか」と自転車を買ったが、首が痛くて前を見ることさえできない。

とうとうギブアップして、近所の巨大病院に行った。MRIで脊椎を撮影してもらったが、素人目に見ても異様に変形している。若い脊椎専門の先生は、パソコンの画面に映し出された画像を見ながら状態を説明してくれる。私の顔さえ見ることなく、次の画面で薬の処方、さらに次の画面で次回の予約。結局、ただの一度も私の身体に触れることなく、たった2分で診察は終わった。

「これが最新の医学か...」私という人間に触れることもなく、一瞥することさえなしに、データだけで診察するわけだ。困り果てた私は、以前からお世話になっている指圧師のところに転がりこんだ。岩のように硬化してしまっている背中の筋肉だけでなく、内転筋や下腿の筋群まで丁寧に揉みほぐしてくれる。小柄な指圧師さんが、汗だくで巨大な肉の塊の上を行ったり来たりしながら、「ここの凝り、やばいですよ」と的確にツボを突き刺すのだ。その都度、私は「あう~」と悶絶し、禁断の「痛いけど気持ちいい」にすべてを忘れる。

私だって体育教師の端くれだ。解剖学の単位も取得している(はずだ...)。医師の説明で医学的な状態は理解できたし、それを指圧師に伝えることもした。彼女は、そのデータを参考にしながら、あの魔術のような指圧で私を悶絶させるのだ。せっかくの科学的なデータも、こうして実感を伴わないとただの数字にすぎない。うむ、少なくともうちの学部は「実感」が得られるような教育を目指しているぞ。

痛みも和らぎ、満足して帰宅すると、妻が私に言った。「あんた、何学部の先生をやってるの。まず体重減らしたら。」

だ、大丈夫です(汗)。人間健康学部でともに学びましょう!