科学技術賞 科学技術振興部門
INTERVIEW
建設事業を効率化する3次元
CADエンジン開発
建設分野でもICT(情報通信技術)を活用すれば、業務効率を高めることができます。2006年にいち早く、国土交通省はCALS/ECアクションプログラムを策定し、3次元情報の利活用を盛り込んでいました。ところが、国内建設CADベンダーには3次元CADの知識と技術蓄積がほとんどなく、汎用性のあるソフト開発が進みません。
こうした状況を打破するため、産学連携により3次元CADエンジン開発をめざす「関西大学カイザー・プロジェクト」が立ち上げられました。その中心となる田中教授は、CALS/ECの基盤となる2次元データ交換フォーマットを作成した第一人者です。田中教授、窪田准教授らによるプロジェクトでは、まず3次元CADエンジンを開発し、これを元に3次元モデリングソフトを制作。国内ベンダーが、低コストで3次元CADソフトウエアを開発できる環境を整えました。
その結果3次元CADソフトが一気に普及し、建設業務において、設計段階からの3Dデータの活用(CIM:Construction Information Modeling)が進んでいます。CIM導入により、建設の業務プロセスが大幅に改善されつつあります。
3次元データを活用した施工管理
「i-Construction」
建設事業における3次元データの活用は、施工管理面でも新たな可能性を拓いています。従来の施工管理では、図面すなわち2次元データに基づいて、現場の部分チェックが行われていました。これに対して3次元設計データと、UAV(Unmanned Aerial Vehicle=ドローンなどの無人航空機)やレーザスキャナによる3次元測量データを付き合わせれば、日々の進捗状況をリアルタイムで把握すると同時に、仕上がり具合の全数チェックが可能です。ISO TC184/SC4国内対策委員も務めた田中教授と国土交通省の取り組みにより開発された施工管理支援システム「i-Construction」は、日本の建設におけるデジュール及びデファクトスタンダード、ICT技術の活用により省力化を図りながら、出来形(建設関係の専門用語で、施工された構造物を意味する)の品質をより高いレベルで確保します。
計測結果の可視化(点群座標データ)
新プロジェクトで3Dモデルを高精密化
田中教授のチームは2015年から、新たに産官学による「カイザー・プロジェクトS」をスタートさせました。同プロジェクトがめざすのは、UAVにカメラと3次元計測が可能なレーザープロファイラー(LP)を搭載し、迅速かつ正確に地形データを把握する計測技術の研究・開発です。LPの活用により、従来に比べて作業効率が10倍以上に向上するほか、レーザー測量による点群座標データとカメラ撮影による写真データを組み合わせることにより、従来より2倍精密な3次元モデルを生成できるようになります。プロジェクトは2025年まで続き、国土交通省に向けてドローン計測技術に関する制度や規程、仕様などを提案します。
社会活動やスポーツにも空間計測を応用
田中教授と窪田准教授の研究内容は、建設以外の分野にも幅広く応用可能。2016年に新たな研究拠点「社会空間情報科学研究センター」が設立され、既にIoT(Internet Of Things)や人の活動などの社会活動分野とスポーツ分野への活用が始まっています。社会活動については、加速度センサ、ジャイロセンサ、GPSなどを内蔵した携帯情報端末から得られるビッグデータを、IoTやマーケティングなどに活用する研究が進められています。スポーツ分野ではアメリカンフットボールやサッカーなどの競技において、GPSとウェアラブル端末で選手一人ひとりの動きを解析し、スポーツの戦略分析を進める技術開発を推進しています。 「ヒト・モノ・コトを測る技術革新」をテーマに、常に最新の技術を取り入れながら、測る対象を土木・建築の世界から社会全般へと大きく広げています。
- 環境都市工学部
- 窪田 諭准教授
- 研究分野
- 社会基盤情報学
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- 地理情報システムの実践・応用研究
- 社会基盤の情報マネジメントシステム
- 3次元CAD/CG/GISの開発と適用