京都盆地の地下水適正利用と
保全に向けた技術の理解増進

環境都市工学部 楠見 晴重 教授

環境都市工学部 楠見 晴重 教授

ABOUT

京都盆地の地中深くに豊かに蓄えられ、人々の生活はもちろん、文化や産業にも欠かせない地下水を調査し、適正利用と保全に向けた理解増進に取り組んでいます。

INTERVIEW

生活、文化、産業を支える
京都盆地の地下水脈

京都盆地は地下水が豊富で、古くから人々の生活や文化を支えてきました。現在も飲料水の他、農業、工業などさまざまな用途に地下水が使われています。特徴的なのは、こうした地下水が、京の文化や伝統産業と密接に結びついているところです。例えば、茶道の三千家(表千家、裏千家、武者小路千家)では、茶の湯に井戸から汲み上げた水が使われる他、京友禅の染色工程にも地下水が欠かせません。また京豆腐や湯葉、京料理、酒造りといった食文化、さらには伝統的な祭事とも地下水は深く関わっています。それだけに地下水を適正に利用・保全することは、人々の生活のみならず、1200年以上にわたって育まれてきた京の文化や伝統産業を守ることにつながります。楠見晴重教授は、30年以上にわたり、京都盆地の地下水やその適正利用に関する研究に取り組み、永続的かつ安全・安心な利用や保全について貴重な知見を提供してきました。

生活、文化、産業を支える京都盆地の地下水脈

生活に不可欠な水源揚水井の
適正利用・管理技術を提言

京都盆地の中でもとりわけ宇治市や城陽市、八幡市などを含む南山城地方では、現在でも上水道水源の多くを地下水に依存しています。そのため地下水の枯渇や汚染は、住民の暮らしに甚大な影響を及ぼします。 1980年代、人口増加に伴って城陽市、八幡市で新しい水源揚水井が必要になった際、楠見教授は自治体から依頼を受け、地域の地下水利用の実態調査を行いました。電気探査の他、実際に地中数百mまで掘削して揚水し、地中の帯水層を調査。以前から使われている農業・産業用揚水井に影響を及ぼさず、かつ市域の人口をまかなう水量を安定して確保できる水源揚水井の場所や数、深さを解析するとともに、水源揚水井の適正な維持管理技術や供給技術について提言しました。 その後も技術・管理指導を続けた結果、30年以上を経た今でも25本の上水道用水源揚水井から年間約1300万トンの地下水が汲み上げられ、八幡市の上水の45%、城陽市においては実に85%をまかなっています。

生活に不可欠な水源揚水井の適正利用・管理技術を提言

京都盆地の地下水を
CGで可視化

京都の地下水脈は京都盆地一体に広がっており、地下水の適正利用を考える上では、当然ながら南山城地方だけでなく、京都盆地全域の地下水の賦存量を把握する必要があります。楠見教授は、2002年、NHKと共同で京都盆地の地下構造の詳らかにし、地下水の賦存状態をコンピュータグラフィックス(CG)で3次元に可視化することに成功しました。8000本に及ぶボーリングの資料や、反射法地震探査、重力探査といった最先端技術による探査結果をもとに、帯水層の「底」にあたる基盤岩までの深さを推定し、当時の最新技術を用いて3次元CGを作成。地下水の賦存量を約211億トンと推計しました。これによって京都盆地の地下に琵琶湖(水量約270億トン)に匹敵する水が蓄えられていることが、初めて明らかになったのです。 楠見教授の研究の功績は、京都盆地の地下水の実態を解明したことはもちろん、何より「社会の目」を開いたことにあります。楠見教授は、2003年、京都市で開催された「第3回世界水フォーラム」でこの成果を発表した他、多くのメディアや講演を通じて社会に発信してきました。京都盆地の地下水をCGで可視化したことで、地域住民や広く社会に京都の豊かな地下水に対する認知が高まり、その適正利用や保全の大切さへの理解が大きく進んだのです。

京都盆地の地下水をCGで可視化
京都盆地の地下水をCGで可視化

京都の地下水をマネジメントする
最新研究

真理の追究に留まらず、社会のあるべき姿を提案し、そのために必要なものを提供する。楠見教授の研究は、まさに関西大学の学是である「学の実化」を学生とともに実践するものです。その知見は、いまや京都の産業にとっても不可欠なものになっています。2008年、蔵元が集積し、多数の酒造用水源揚水井が存在している伏見地域で下水道敷設が計画された際には、伏見酒造組合の依頼を受け、下水道建設が地下水に及ぼす影響を調査しました。並行して地下水の重要性に関する啓発活動を実施。その一環として、伏見の酒蔵の一つである月桂冠株式会社と関西大学共同で、研究知見を活かしたミネラルウォーター「自然の秀麗」を企画・商品化しました。 また城陽市、八幡市の水源揚水井を次の30年も維持していくために、国内で初めてアセットマネジメントの手法を取り入れ、最適な管理手法や技術を研究しました。さらに最近では、過去の膨大な計測データをAI(人工知能)に学習させ、水源揚水井の地下水位の将来予測に関する研究にも取り組んでいます。こうした緻密な調査と最新技術を駆使した研究が、京都の地下水を保全し、人々の暮らし、文化、産業を支えることに役立っています。

京都の地下水をマネジメントする最新研究
京都の地下水をマネジメントする最新研究

PROFILE

環境都市工学部 楠見 晴重 教授

[研究分野]

岩盤力学・地盤工学・地盤環境工学
・水理地質構造の3次元可視化
・地下水保全と適正利用、保全技術の発信

環境都市工学部 楠見晴重教授
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