科学技術賞 理解増進部門
INTERVIEW
専門分野の境界を超えた学習環境づくり
関西大学、大阪医科大学、大阪薬科大学の3大学は、2009年より連携事業として「『医工薬連環科学』教育システムの構築と社会還元~分子から社会までの人間理解~」に取り組んできました。工学分野では近年、生命に関する領域での貢献が進み、各種医療用装置やロボットの研究・開発から創薬分野での活用も始まっています。しかし、人体を対象とする医療分野とモノを対象とする工学の連携体制はいまだに不十分であり、医工薬看分野での本格的な連環を実現するには、各分野を横断する融合教育体系や研究基盤の構築が必要です。そこで「分子から社会までの人間理解」をキーワードに3大学が連携し、生命について深い洞察力と問題解決力を兼ね備えた人材育成を図ってきました。この事業は2009年度~2011年度、文部科学省の「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」に採択され、教育課程の構築、教育支援システムの構築と教育環境の整備、地域への社会還元の3つの活動に取り組んでいます。
医学、工学、薬学、看護学の
橋渡しができるゼネラリストを養成
教育課程の構築においてめざしたのは、医工薬看分野の知識修得と、分子・細胞・個体・社会の各レベルにおける人間の機能を理解すること。医工薬を融合する科目群を新たに開発し、標準カリキュラムを策定、3大学での単位互換制度を導入しました。体感型教育として他大学学生向けの実験実習科目も取り入れ、共通教材も独自に作成しています。分野横断型の知識を身につけることで、医療・福祉分野で生じる問題点を自ら発見し、医工薬看連環の広い視野で解決策を創出、その改善策の実施までをこなせる人材育成をめざします。
先導的医工薬連環教育研究拠点の形成
大学連携をスムーズに進めて教育効果を高める鍵は、キャンパスが離れている各大学を有機的に結合することです。そのために遠隔講義(テレビ会議)システムを活用した、教育支援ネットワークを構築しました。これにより学生は、それぞれのキャンパスに居ながらにして、他の大学で行われている講義をリアルタイムで受講できます。動物を使った実験実習や薬用植物の観察などは大阪薬科大学に集合して、集中的に行います。
一方で、倉田准教授ら各教員は、他大学に赴いたり遠隔講義システムで他大学生と議論するなど「臨場感のある遠隔講義」の実施をめざしており、同席する専属の教員が学生に対して問題提起を呼びかけるなど講義の活性化をサポートします。一つのテーマについて、医工薬看それぞれの視点からの意見がネットワークを介して飛び交い、異なる立場からの見方を知ることで、学生たちは知的刺激を受けると同時に、各テーマについての理解を深めています。
地域に赴き、地域に育てられる
循環型教育システム
地域への社会還元としては、子どもから高齢者までを対象とする年代縦断型プログラムを提供。市民講座は若年層と高齢者が同時に参加できるよう、世代を超えて関心を集める「食」などの身近なテーマを設定し、地元高槻に縁のある企業の協力を得て開催しています。小・中学生を対象とした自由研究コンテストでは、入賞作が市民の目に触れるよう高槻市役所に展示。小・中学生への出張講義では、関西大学教員とTA(Teaching Assistant)のチームが主体となり、実験を中心とする体感型理科教育を行ってきました。その際に倉田准教授らが重視していることが、小・中学生に対する「びっくり」効果です。実験での驚き体験が好奇心を刺激し、科学的思考の育成につながることが期待されています。
味の素(株) の協力を得て開催した「高槻家族講座」
小学校への出張講義
高槻市内の小・中学校に通う児童・生徒などを対象にした
自由研究コンテスト
三大学医工薬連環科学シンポジウム