情報機器におけるナノ機械工学と
革新実用化技術の先駆的研究

システム理工学部 多川 則男 教授

システム理工学部 多川 則男 教授

ABOUT

企業、そして大学で40年以上、一貫してハードディスクの高密度化技術を先駆的に研究。
特に磁気ヘッドの浮上量の微小化において、いくつもの革新的技術を実用化につなげています。

INTERVIEW

磁気ヘッドの
浮上量微小化に挑む

高度情報化の進展には、情報を記録・再生するハードディスクドライブ(HDD)の超大容量化・高性能化が欠かせません。HDDは、磁性体を塗布した磁気ディスク媒体を高速回転させ、その上に磁気ヘッド(スライダ)をアクセスして情報を読み書きする装置です。ディスクが回転している時、スライダはディスク上に発生する空気の流れによって、ほんのわずかに浮上した状態を保っています。このスライダとディスクの隙間が小さいほど、高密度に大容量を記録することができます。つまりHDDの容量を増やすには、ディスク本体の性能を高めるだけでなく、スライダの浮上量を極限まで小さくする必要があるわけです。多川則男教授は、約40年間にわたってスライダの浮上量の微小化に取り組み、HDD高密度化の技術開発において世界をリードしてきました。 世界初のハードディスクが登場したのは、1957年。その時のディスク径は24インチで記録容量はわずか5MB、スライダの浮上量は2000nmでした。それがいまやディスク径3.5インチの記録容量は14TBとおよそ280万倍、スライダの浮上量は2~3nmにまで小さくなっています。こうしたHDDの驚異的な進化に多川教授の研究は大きく貢献しました。

磁気ヘッドの浮上量微小化に挑む
磁気ヘッドの浮上量微小化に挑む

浮上量100nmの壁を破った
新方式を開発

これまでにHDDの高密度化が大きく前進した契機がいくつかあります。スライダの浮上量が100nmの壁を破った時も、その一つです。 スライダとディスクの隙間を小さくするためには、両者の表面をできる限り平滑にする必要があります。ところが装置が動作していない時にはスライダがディスクと接触しているため、両者の表面を平滑にするほど互いに吸着するという問題が発生。スライダの浮上量を100nmより小さくするのを阻んでいました。このパラドックスな難題を解決したのが、「非接触起動停止方式」という、従来の逆転の発想で生まれた方式でした。多川教授は、スライダをディスクの外側に設置し、起動したらアクチュエータでディスクにアクセスするという従来とは異なる非接触の起動方式を採用。スライダも、空気が流れると上向きの正圧と同時に下向きの負圧が発生する特殊な形状にすることで、微小な隙間でも安定してスライダが浮上できる革新的な機構を開発しました。この非接触起動停止方式を世界で初めて実機レベルで実現し、高い信頼性を実証。この結果、スライダの浮上量100nmの壁を突破し、一気に10分の1以下にすることに成功しました。この概念方式は1997年に実用化され、現在もすべてのHDDに使われています。

浮上量100nmの壁を破った新方式を開発

2段構成の
マザーシップ型スライダを開発

さらなる大きな障壁は、スライダの浮上量10nmを切ることでした。スライダとディスクの隙間がナノサイズにまで小さくなると、分子間力やディスク表面に塗布された潤滑剤からスライダに吸引する力が働き、スライダの浮上が不安定になるという新たな問題が発生します。その解決策は、スライダを超小型化し、吸引力を小さくすること。しかしスライダを小さくすれば、今度は外部からの衝撃となどの外乱に弱くなってしまいます。そこで多川教授は、マイクロマシンで長さ0.2mmの超小型スライダを作製し、それに約1㎜のマザースライダを組み合わせる2段構成のマザーシップ型スライダを開発。ついにスライダの浮上量を数nmサイズにまで低減し、HDDのさらなる大容量化を可能にしたのです。この設計概念を応用したHDDが2007年、実用化されました。

2段構成のマザーシップ型スライダを開発

HDDのさらなる
高密度化大容量化に貢献

次世代に必要とされるテクノロジーをいち早く予見して、それをブレークスルーする技術を研究し、イノベーションの創出に貢献してきた多川教授。近年は、ディスク表面に塗布する潤滑剤の分子の存在形態を解明し、ナノスケールでの薄膜化に取り組んでいます。企業との共同研究で、分子の厚さ(単分子膜厚)が1nm以下と従来の1.7nmよりはるかに薄く、かつ平滑な分子構造を持った新しい潤滑剤を創製し、実用化しました。 また200℃~300℃のレーザーを瞬間的に照射して記録する熱アシスト磁気記録も共同開発、世界に先駆けて信頼性を検証ました。この設計知見も、2018年にサンプル出荷されたHAMR HDDに活用されています。こうした多川教授による数々の技術革新の結果、いまやハードディスクの記録密度は最初に登場した時の1000倍に達しています。 クラウドコンピューティングなどの進化に伴い、超大容量で高性能なハードディスクの必要性はますます高まっています。IoT活用社会を支えるインフラ構築やナノ機械工学の進歩に向けて、多川教授の今後の研究に期待がかかります。

HDDのさらなる高密度化大容量化に貢献

PROFILE

システム理工学部 多川 則男 教授

[研究分野]

情報機器のマイクロメカトロニクス
・ナノメータ浮上スライダと超薄膜潤滑膜の相互作用
・熱アシスト機器記録のヘッドディスクインタフェース
・DLC薄膜のナノトライボロジー

システム理工学部 多川則男教授
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