関西大学 人間健康学部

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格差社会を考える

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 「格差社会」という言葉を耳にすることが多くなっている。規制緩和による派遣労働の拡大とそれに伴う就労状況の違いからくる賃金や生活の格差を背景としている。この格差については、実は社会では評価が分かれている。「別に仕方がないよ」「悔しかったらがんばればよい」「がんばった人ががんばった分、報酬を得るのは当然である」等の意見について理解できなくはない。しかしである、本当に格差を認めて良いのだろうか。この格差が、人間の生活の格差、もっといえば命や生き方の格差につながっているとすれば、それは問題ではないだろうか。そして、親の就労状況に生活の多くを依存している学齢期の子ども達にとって、世帯の経済状況によって十分な教育や生活環境や機会が与えられないとすれば、これは大きな問題である。
 社会福祉の問題の一つである「子どもの貧困」の問題は深刻である。保護者の経済的要因や子どもの成長や生活に必要なものが不足している状況が影響し、将来の教育や就職等の生活上のチャンスが奪われ、その後の人生にも大きな影響を与えることが指摘されている。この「格差」がいま、子どものさまざまな格差を引き起こしている。親の就労環境が不安定になる中で、子ども達はなすすべがない。ひとたび失業してしまえば、経済的に追い込まれてしまう。一時マスメディアを騒がせた「無保険の子どもたち」。親が国民健康保険料を払えず保険証が使えないため、病院に行けない子ども達の実態が浮き彫りにされた。また、低所得のため家庭でも十分な栄養をとることができず、学校給食が主な栄養源となっている状況もあり子どもの成長に深刻な影を落としている。貧困が子どもの将来を奪い、また、健康をむしばみ、回復のための手段を奪っている。
 このような格差が認められてよいのだろうか。自己責任として仕方がない、とあきらめるしかないのだろうか。いや、決して許されるはずがない。そのような社会が、すべての人にとって幸せや豊かさをもたらし、子どもが夢や希望が持てる機会を与えることはない。この問題を子どもを持つ親の問題として固定化するのではなく、社会全体が解決すべきものとして考え、子どもの貧困がさまざまな格差を引き起こしている状況を正確に捉え、貧困是正のアプローチを早急に政策課題とする必要がある。社会福祉に関わるすべての者がこの命題について考えていかなければならない。