Interview no. 21

研究ユニット内外における交流の活性化と新たな共同研究の創出

ソシオネットワーク戦略研究機構(RISS)では、研究環境の向上と持続可能な共同研究拠点化を目指し、多角的な組織改革を行ってきました。その一環として、2026年度より、10以上に細分化していた研究ユニットを「公共政策」「マネジメントサイエンス」「データ創出」の3つに統合。所属研究員の多様な専門性を整理・集約し、これまで以上に柔軟で機動的な研究プラットフォームを構築していきます。
今回は、ユニット再編を記念して、小川機構長と新ユニット長3名による座談会を実施。研究者同士の活発な交流を促進するアイデアや、新たな共同研究の創出に向けた展望を語り合っていただきました。

参加者

小川 一仁 教授(機構長)

小川 一仁 教授(機構長)

関西大学社会学部教授。2014~2018年度にかけて、社会人・高齢者の意思決定に関する経済実験プロジェクトの主任研究者として関西大学経済実験センタ―の設置に携わり、実験環境の共同利用拠点化を実現。2023年より関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構長。専門は実験経済学、行動経済学。過去の取材記事はこちら。

川村 哲也 准教授(公共政策ユニット長)

川村 哲也 准教授(公共政策ユニット長)

立命館大学食マネジメント学部准教授。2009年、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。大阪大学社会経済研究所特任研究員、京都大学経済学研究科研究員、関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構ポスト・ドクトラル・フェロー、帝塚山大学経済経営学部准教授を経て、2026年より現職。専門は実験経済学、行動経済学。過去の取材記事はこちら。

石橋 健 准教授(マネジメントサイエンスユニット長)

石橋 健 准教授(マネジメントサイエンスユニット長)

関西大学ビジネスデータサイエンス学部准教授。2014年、関西大学大学院総合情報学研究科博士課程後期課程修了。関西大学総合情報学部ポスト・ドクトラル・フェロー、関西大学データサイエンス研究センターポスト・ドクトラル・フェロー、兵庫県立大学社会情報科学部助教、関西大学商学部准教授を経て2025年より現職。2019年から現在まで、関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構研究員を務める。専門は情報科学。過去の取材記事はこちら。

稲葉 美里 准教授(データ創出ユニット長)

稲葉 美里 准教授(データ創出ユニット長)

関西大学社会学部准教授。2016年、北海道大学大学院文学研究科博士後期課程修了。2017年より関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構経済実験センターポスト・ドクトラル・フェロー、2018年日本学術振興会特別研究員ポスト・ドクトラル・フェローを経て、2020年から近畿大学経済学部講師、准教授を経て、2026年より現職。専門は社会心理学。過去の取材記事はこちら。

Chapter 01

研究者同士の交流をいかに促進するか?

小川:
ソシオネットワーク戦略研究機構(以降RISSと表記)は、学内外から多様な専門性を持つ研究者が集まる拠点です。ユニット再編を機に、研究者間のさらなる交流機会をいかに創出し、ユニット内外におけるコラボレーションを促進していくか。ユニット長の皆さんのアイデアをお聞かせください。
川村:
論文の構想段階でざっくばらんに意見交換できるワークショップを企画したいと思います。実験は一度データを取り始めると軌道修正が難しいため、設計段階で指摘をいただけるとより良い研究になるのではないかと。ただ、進行中の研究をフルオープンで話す難しさもあるので、ユニット内の限られたメンバーで意見を持ち寄って議論できれば、共同研究が生まれるきっかけになるかもしれません。
稲葉:
そこで生まれた共同研究から成果が出た際、大型の公募研究へとステップアップできる仕組みがあると、参加する動機になりますよね。ワークショップから生まれた研究を大きな成果へと育てていける仕組みを整えることで、本機構の特色や社会的意義を外部によりアピールできると考えています。
川村:
おっしゃる通りで、ただ場を用意するだけでは交流は生まれにくいので、インセンティブを用意することは重要ですね。研究費の獲得といった面だけでなく、新たな実験手法などのノウハウや知見を学べる点も、インセンティブになるはずです。例えば、経済学と心理学で異なる実験手法や、視線計測といった技術を共有し合うことで、自分の研究の幅も広がる。そうした相互の学びの機会も、参加のモチベーションを高めることにつながります。
石橋:
ノウハウの共有は重要だと思います。私自身、ポスドク時代にお二人(小川先生・川村先生)に実験参加者へのインセンティブ付与の方法を相談したことがあります。私たちのチームにはなかった知見を授けていただき、非常に勉強になりました。マネジメントサイエンスユニットには、社会科学の中でも様々な専門分野の方が所属しているため、まずは相互の研究内容や専門性を把握し合う機会を設けることが必要だと考えています。分野によって実験の手法は大きく異なりますし、他分野の手法を応用することで新しいコラボレーションが生まれるはずです。そうした「実験手法やノウハウの共有」をきっかけにするだけでも、十分に魅力的な交流の場になるのではないでしょうか。
稲葉:
手法やノウハウの共有は、本当に需要がありますよね。私が所属する学会では年に1回「方法論セミナー」が開催されます。新しい解析手法やデータ取得手法について、その分野を専門とする研究者が解説する勉強会で、毎回数百人が参加する人気企画です。方法論に特化したセミナーを開催するのも、人が集まる非常に良いきっかけになりますね。
川村:
手法だけでなく「暗黙知」の共有も需要があるでしょう。実験では、事務手続きや実験当日の運用など、マニュアル化されていないものの、知っておくべき重要な知見が存在します。現場のノウハウを共有する場は、今後実験に挑戦したいと考える方への後押しになるでしょう。実践的な知見の提供は、ユニット内だけでなく、学外や組織外の研究者へのアプローチにも有効だと考えます。
稲葉:
組織外へのアプローチという点では、RISSが多様な研究者が集まる自由度の高い環境だからこそ、理念や体制、活動の意義を発信していくことが重要だと考えています。私自身、着任前は本機構の実態がつかめず、不安を解消するために実際に見学しました。実験参加者プールを開放している理由や、その管理・運用体制を明確に示すことで、外部の方も参画しやすくなるのではないでしょうか。
小川:
皆さん、非常に実践的なご意見をありがとうございます。研究者が集まる交流の場を作り、参加のモチベーションを高めていくために、現場の「暗黙知」や実験手法といった役に立つノウハウを共有すること、そして機構の理念や実験室の仕組みをわかりやすく発信することなど、様々なアイデアが出ました。こうした取り組みを通じて、学内外の交流をさらに活発化させていきたいですね。

Chapter 02

ユニットを超えたコラボレーションが生む価値とは?

小川:
ここまでは研究者同士の交流を促す施策について伺ってきましたが、ユニットを超えた連携から生まれる相乗効果や、共同研究に向けたアプローチについて、どのようにお考えでしょうか。
川村:
異なる専門手法を補い合い、課題解決の選択肢が広がるのが、ユニット間の連携のメリットです。例えば、政策の効果を検証する際、現場では公平性の問題などから理想的な比較実験ができないケースがあります。そうした時に、実験手法の専門家に相談して「実験室で再現する」手法をとったり、データサイエンスやミクロ計量経済学の専門家と組んで「不完全なデータから効果を正しく推計する」といったアプローチを試みたりできるでしょう。
石橋:
まさにその通りです。フィールド実験を行う身としては、実験室との連携の重要性を痛感しています。以前、実店舗で視線計測データを収集しようとした際、店の運用上の都合でポスターの掲示が高い位置に制限され、意図した通りのデータが得られなかったことがありました。想定外のことが起きる現場での実験に対して、実験室では条件をコントロールできること、その二つを組み合わせることの大切さを、身をもって学びました。
稲葉:
研究成果の社会実装をめざす研究者が、現場での実験の代わりにRISSの実験室を利用したり、データサイエンスの知恵を活用したりするのはイメージしやすいです。一方で、基礎研究に携わる研究者が、社会実装を担う研究者に向けて、現場の課題を踏まえたデータ活用の方法を提案することは難しいのではないでしょうか。
石橋:
基礎から応用へのアプローチは、まさに今取り組んでいる部分です。マーケティング分野の研究者と共同で、VRなどの視線計測技術をデータ取得に応用する研究を進めています。将来的に実現したいのは、マルチモーダル計測実験室の設置です。こうした環境の下、他分野の先生方にも新たな実験手法をご提案できるようになれば、更なる共同研究へと広げていけるでしょう。
川村:
これからが楽しみですね。しかしながら、個人の研究と並行して分野をまたぐコラボレーションを進めていくには、研究者にとってのメリットや、そうせざるを得ない事情がない限り、なかなか難しいのではないでしょうか。
石橋:
現実はそうですね。最近のマーケティングの分野では、論文の説得力を高めるために複数の事例や実験結果を求められます。多様なデータ収集の手段を持っていないと論文が書けない時代になってきているのですが、この潮流が他分野にも広がっていくとしたら、異分野の手法やノウハウを共有できるRISSの重要性が高まりますね。
稲葉:
心理学でも、複数の実験やデータを用いて多角的に根拠を示す傾向が強まっています。
小川:
現場の課題解決と基礎の理論・技術を結ぶ、基礎と応用の協力体制はもちろんですが、こうした論文執筆における切実な課題があるからこそ、多様な手法を共有し、他分野に応用・展開していけるRISSの環境は、研究者にとって大きなメリットになりますね。研究者同士の交流を促し、社会にインパクトを与える成果を生み出していきたいです。本日はありがとうございました。
稲葉美里 准教授 × 三浦貴弘 講師 × 村本顕理 講師