裁判官国際シンポジウムinバンコク参加記
武宮 英子(知的財産高等裁判所・裁判官)
2012年3月9日、バンコクにおいて、関西大学とタイ司法府の共催による裁判官国際シンポジウム“Current and Next Decade Situations of Asian Courts on Intellectual Property Rights”に参加する機会を得た。
シンポでは、基調講演の後、インド、日本、韓国、台湾、ベトナム、タイ、南アフリカ、ブータンの裁判官が各国の知財裁判の状況等を報告した。日本からは、特許法の改正により、イノベーション促進のため、ライセンス契約保護や研究・開発における真の発明者の権利保護が強化されたこと、紛争処理手続がより迅速、効率化されたこと等を報告した。韓国からは、特許裁判所(日本の審決取消請求事件に当たる事件のみを扱う。)は、迅速、予測可能な事件処理に有効であるが、その管轄に特許侵害訴訟を含めるかが議論されていること等、台湾からは、知的財産裁判所(知財関係の民事・行政・刑事事件を扱う。)は、迅速、専門的に事件処理する体制が整っているが、専門化しすぎると視野が狭くなる弊害が懸念されること等が報告された。一方、インド、タイ、ベトナム、南ア
フリカからは、著作権、商標権等の侵害を阻止するため、積極的に差止めや刑罰法規の適用等を行っていることや事件の処理状況等が報告された。コメンテーターであるPisawat Sukontapan氏の、「日・韓・台は特許制度を報告し、他の国は著作権等の保護を報告したのは興味深い。」との指摘は印象的である。知財制度が成熟し、特許権に重要な財産的価値を見出す国と、著作権等の侵害に対する違法性の認識を啓発しつつある国の問題状況の違いが現れたものであろう。
また、この前日には、関西大学のご厚意により、タイで最も古い歴史を持つ法律事務所Tilleke & Gibbinsを訪問できた。同事務所は知財事件も扱っており、Nandana Indananda弁護士は日本の特許制度をよく研究されていて、職務発明制度などが話題になった。事務所併設の偽造品博物館には、日本の電気製品、化粧品等と瓜二つの偽造品も多数陳列され、偽造品対策の困難さが窺われた。
知財裁判に関与する裁判官が、各国の制度及び問題状況に関する理解を共有できたことは、知財制度の国際調和のための重要な第一歩であると思う。水害による困難にもかかわらず、シンポを開催された関西大学とタイ司法府に敬意を表する次第である。
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カントリーレポート(午前の部) 要旨
カントリーレポート(午後の部) 要旨
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