第3回国際シンポジウム
カントリーレポート(午後の部)要旨
辻 雄一郎(駿河台大学法学部准教授)
(Le Xuan Thao氏)
Le Xuan Thao裁判官(ベトナム)は、2011年に、知的財産権の法及び制度改革、新たな産業財産権の創設、裁判官の訓練プログラムを紹介した。ここ最近
五年間でベトナムは大きな変化を経験した。しかし、台湾やタイランドと異なり、知的財産に関する紛争は通常の民事あるいは刑事裁判所で扱われている。知的財産について通常の裁判管轄と独立した排他的裁判管轄を備えた裁判所はまだ導入されていない。行政機関として用意されるベトナム特許庁(The National Office of Intellectual Property of Vietnam : NOIP)の役割が期待されているが、同時に裁判官は知的財産についての特別な訓練が将来、必要となるだろうと述べた。
(Sung-mei Hsiung氏)
Sung-Mei Hsiung裁判官( 台湾)によると、台湾の知的財産裁判所(知慧財産法院)は、創設以来、三年を経た。本裁判所は、知的財産にかかるあらゆる紛争について排他的裁判管轄権を有する。専門的知識を備えた裁判所で効果的で迅速な解決が期待されている。しかし、効果的な制度は必ずしも正確性を担保するというわけではない。常に進化する専門的知識は裁判官の訓練制度のさらなる高度化を期待している。台湾での司法制度改革に従事した経験から、台湾、日本、大韓民国それぞれの知的財産権を比較して構成を分析した。彼女は、専門的な証拠について裁判官が慎重にあるべきかどうか、を議論した。
(Siraj Desai氏)
南アフリカでは知的財産に関する法律の改革の中で、薬品、農業や教育分野が国家の優先事項として扱われているとSirajDesai裁判官(南アフリカ)は指
摘する。南アフリカではルイボス茶の医療効果は知られずに一般に人々によく飲まれている例を挙げ、多くの巨大企業が地元の人々から伝統的知識を吸いあげて利益を得ていると強調する。「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」中の伝統的知識についてWTOでの調整が破たんしていると指摘する。発明を保護する知的財産法の概念だけでなく、商標と表現の自由について議論した。
(Toom Mek-yong氏)
タイランドのToon Mek-Yong裁判官は、世界の司法制度改革の潮流にあわせてタイランドに創立された「中央知的財産及び国際貿易判所」を紹介した。本裁判所の改革法は1997年12月に施行された。当裁判所は知的財産の民事・刑事上の執行及び国際貿易、保険に関する審理に排他的管轄を有している。他国と比べると裁判所規則が柔軟に利用されている。議会で裁判所法が改正されるまでの長い空白期間を裁判所規則の制定と運用によって埋めようとしており、大陸法の問題をコモンローによって解決しようとしている点に特徴がある。審理する裁判官の資格に知的財産の専門的知識が必要とされ、裁判前手続き、法廷外の証拠調べにビデオ会議も採用された。
(Kinley Namgay氏)
それぞれの報告者は、それぞれのトピックに緻密で冷静な分析を示していた。コメンテーターも討論に参加することもあり、熱気のある議論が展開された。オブザーバーとして参加されていたブータンのKinley Namgay裁判官も議論に飛び入り参加して、コメントする一幕もあり、司会を担当したNetipoom Maysakun裁判官は、熱気のある議論を美しく整理した。
(辻 雄一郎氏)
全体総括
プログラム
カントリーレポート(午前の部) 要旨
カントリーレポート(午後の部) 要旨
裁判官国際シンポジウムinバンコク参加記