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藤澤東畡 「陶靖節」七言絶句(関西大学総合図書館蔵)
寄奴威烈遍人寰 寄奴の威烈 人寰に遍く
不耐氛埃拂老顔 耐えず 氛埃の老顔を拂うを
占得東籬幽静地 占い得たり 東籬幽静の地
坐望晋代旧南山 坐して望む 晋代の旧南山
陶靖節 藤澤甫
(印記)藤澤甫 元發
詩題の「陶靖節」は田園詩人とうたわれる東晋の陶淵明(365-427)。「寄奴」は南朝・宋の初代皇帝(武帝)となった劉裕の小名、「人寰」は人間の社会をいう。陶淵明が「帰去来の辞」を書いて故郷の潯陽に帰ったのは、軍人劉裕が武力により勢力を拡大しつつあった時である。劉裕は420年、東晋王朝のあとを受けて帝位につくが、皇族を毒殺するなどその行動は陰惨をきわめた。「東籬幽静の地」以下は、陶淵明の「飲酒詩」のなかの有名な句「菊を采る 東籬の下 悠然として南山を見る」をふまえる。
この詩は陶淵明の境地をうたいつつみずからの生き方を重ね合わせたもので、『東畡先生詩存』(1913年刊)にも収められ、同書冒頭には本書軸の写真を載せている。