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第18回マイノリティ・セミナー

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第18回マイノリティ・セミナー
「人権と非国家アクター-Human Rights and the Role of Non-State Actors」

                      
人権に関する理論的研究のみならず、その現実の履行を確保するための活動を積極的に展開しているバナラシ・ヒンドゥー大学法学部長のヴェルマ教授を迎え、非国家アクターに対する国際人権法の適用可能性についてのセミナーを行った。

【講演要旨】
国家間の法的関係を規制することに主眼を置く伝統的な国際法学において、国際法主体、すなわち国際法上の権利・義務の担い手は、原則として国家に限定されていると考えられてきた。そのような思考のもとでは、個人の権利としての人権は、国際法の対象に入らないものであった。しかし、第二次世界大戦後、世界人権宣言などの規範文書(ソフト・ロー)や人権諸条約が整備されるなかで、人権は、国際法の重要な分野として認められるようになっている。

しかし、人権を保護し尊重する責任を負うのはだれであるか、という問いは残されている。一般的には、人権保護義務の名宛人は国家であり、国際法においても、当初は、人権を保護する責任を負うのは国家であると考えられてきた。しかし、それだけでは十分ではない。非国家的アクターには、一方で、人権NGOのように人権保護のために活動するものもあるが、他方で、人権を侵害する可能性を持つアクターもある。例えば、グローバル化が進む今日の世界において多国籍企業は大きな権力を有しており、人権を侵害しうる重要なアクターである。「小さな政府」の思想が強まっている状況においては、私的な領域の役割が増大し、それにつれて、私人による人権侵害の可能性はますます広がっている。

このような非国家的アクターによる人権侵害の可能性について、国際社会はすでに強い関心を示してきた。多国籍企業についての国際的な行為規範を作ろうとする試みは、強い抵抗の下に挫折したが、その結果、主要な多国籍企業は人権に配慮した行為規範を自主規制として策定するようになってきた。このような自主規制を国家の監視のもとに履行させていくことは、人権を多国籍企業に尊重させる方策として有効であろう。また、国連総会は、「人権の促進・保護に関する個人・人民・集団の権利と責任に関する宣言」(1998年)を決議し、国家のみならず、個人や集団もまた、人権を尊重する責任があることを明らかにした。総会決議には法的拘束力ないけれども、ソフト・ローとして、規範的な意味を持つ。そのほか、地域的な国際人権裁判所において、私人による人権侵害行為について、国家の責任を認める判決が出されており、私人間における人権の尊重について国家が無関心であってはならないという法原則が確立してきている。

このように、すでに非国家的アクターによる人権尊重義務は、さまざまなフォーラムにおいて法的に承認されてきている。今後は、普遍主義や域外適用、公・私二元論の克服などを通じて、非国家的アクターに対して人権法を適用する法的枠組の構築がはかられてゆくべきである。

【質疑】
報告の内容の確認として、「公私二元論は、人権の私的領域への適用の障害となる一方で、それ自体が私的領域への公権力の介入を制約するという人権保護原理であることをどう考えるのか」という問いや、「非国家アクターによる人権侵害があった場合、直接に非国家アクターに国際法上の責任を問うべきなのか、国家責任を介在させるべきなのか」という問いが提起された。また、関連する問題として、インドの国家人権委員会の活動について、他国の類似の制度とくらべての特徴などについて質問がなされ、聴講者を含めて活発な議論が交わされた。

西 平等(関西大学法学部准教授)

 


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