「国家形成とマイノリティ」研究班 主幹メッセージ(安武真隆)
国民国家形成の歴史は、国家によるマイノリティの排除・統合・同化・動員の歴史として理解されることが多い。しかし、マイノリティは、国家による抑圧・同化の対象であるだけはない。マイノリティとしての属性を保障してもらうことを期待して、積極的に国家に対する忠誠を表明したり、国家形成・運営に関与したりする場合もある。また国家の側も、マイノリティが持つ資源を国家統合のために積極的に活用するために、一定の妥協を示す場合もある。また植民地統治に代表されるように、マイノリティが強者として圧倒的多数を支配下に置くこともある。以上のことをふまえ、本研究班は、国家とマイノリティとの従来的な理解を相対化し、両者の動態的な関係を内在的に解明することを目指す。両者の関係を理解するためには、本研究班では、国家の側の排除・統合の論理に着目する。
残念ながら、従来の国家論の多くが、暴力装置としての国家をどう統制するか、あるいは既存の国家への服従をどう調達するかをめぐる規範的議論が大半であり、国家とはそもそも何をするものなのか、いかにして国内の資源を動員するものなのか、という記述的側面については、看過されがちであった。したがって、本研究班では、この問題に対して、a)西欧における国民国家形成過程の読み直し、b) 現代の西欧諸国における国民国家モデルの動揺、 c) 開発途上国における国民国家モデルの適応の実態確認、の三点を軸に共同 研究を遂行すると同時に、三者の相互提携を図る点にその独創性がある。