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教員が語る専門領域の魅力 vol.17

鼓 宗 教授

詩のことばを通して

鼓 宗 教授

Profile

専門はスペイン・ラテンアメリカ文学(現代詩)。20世紀前半に活躍したチリの詩人ビセンテ・ウイドブロをはじめ、アヴァンギャルドを中心にスペイン語圏の現代詩を紹介に努めています。

詩のことば

 詩は古くから存在してきました。それが文字で記録されるかしないかはさて置き、どの言語でも、最初に生まれる文学の形態は詩だと言えるでしょう。詩はわたしたちが日ごろ用いているその言語で記されますけれども、しかし、あることばとまたほかのことばとのつながりが、道具として伝達し得る内容とはまた別の意味(この「意味」という呼び方は適当ではないかもしれませんが)を獲得し、まるで生まれたばかりのもののように、わたしたちが初めて触れるもののようにして立ち現れます。詩を通じて、わたしたちは言葉が生まれる瞬間に立ち会うのだと言ってもよいでしょう。ある詩人はそれを指して「始原の言葉」と呼んでます。

ことばの詩

 そのように詩は、日々、使われることでくたびれ、誕生した時に持っていたはずのまるで魔術が発現する時のそれのような輝きを失った言語をよみがえらせます。その再生の在り方はさまざまで、詩としてふだん広く認知されているような分かち書きされた行の連なりばかりがそうとは限らず、散文がそのまま詩のことばとなることもあれば、日常のなかのふとした会話がそうなる可能性もあります。詩はどのようにも姿を現しうるのです。ただわたしたちもまた、誰もがそうやってそこにある詩に敏感で、掃きだめに一輪の花を認めるように、あるいは、分け入った森の深くに群生するめずらしい花に行き当たるがごとく、それに気づき、意識的であるか無意識的であるかは問わず、自らが次に発することばの滋養としています。

ことばのうちにあるもの

 ずいぶんと抽象的になりました。もう少し身近な話にすると、大学で言語を学ぶということは実用に利するだけではなく、人類が誕生して最初のことばを口にして以来、そこに積み重ねられてきた諸々の文化に触れるということです。ことばはただそこにあって、いま必要な何かを伝えるだけでなく、人々の積年の営みを、人の世の歴史を背負っています。そして詩は、日常、忘れて過ごしているそのことをわたしたちに思い起こさせてくれるのです。担当するゼミナールでは、詩を読むこともありますが、他にもそうした言語がうちに秘める諸相を読み解く方法を大学での学問は教えてくれるはずです。ぜひ関西大学で、そうしたことばの持つ深みに指先を浸してみてください。そのまま腕のどこまでを引きこまれることになるのか、きっと驚きをおぼえるに違いありません。

学生のみなさんへのメッセージ

 大学で外国語を学ぶことの意義は、その言語の運用能力を身に付けることにあるのではなく、それを用いて何を知ることができるのか、むしろそちらに関わっています。むろん両者は相互関係にあるのですけれども、おぼえようとしていることばで何を理解したいのか、あるいは、そのことばの何を探究したいのか、見きわめてくださればと期待します。それに、1冊でも、誰の詩集でも繙いてくださればと。