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TSネットワークTA研修TA通信実践事例

TA通信第10号

TAとしてのやりがい

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鶴羽貴子(社会学部心理学専攻「意思決定の心理学」TA)

 私は、社会学部心理学専攻の林直保子教授がご担当の「意思決定の心理学」という授業のTAを務めさせていただいています。私は昨年度もこの授業のTAを担当し、今期で2期目となっています。今回は、私のTAの授業形態と活動内容および授業内容とTAとしてのやりがいの2点について以下にご紹介をさせていただきます。

➀授業形態と活動内容
■授業形態■
 この授業は、社会学部の2年次配当の選択科目で週に一度行われ、今期の学生は、約25名で比較的少人数のクラスとなっています。この授業の目的は、人間の意志決定の特徴とリスク社会における信頼の役割を理解することとされています。この授業の特徴は、講義形式の授業が多い中、学生が実際に個人やグループで意思決定に関する実習やグループワークを体験する点にあります。そのため、学生は人間の意志決定の特徴等を講義と自身の体験によってより深く理解し、考えられる授業になっているのではないかと思います。
 この授業での私のTA業務は、教材準備と授業補助の2つに分かれます。

■教材準備・授業補助■
 授業形態の特徴として述べたように、学生は、個人やグループで実際に意思決定に関する実習やグループワークを体験するため、TAの仕事は、先生から授業の数週間前に実習等の説明を受け、教材作成やグループ分けの準備を行うことから始まります。実習は、学生が対面でコミュニケーションしながら進めるものと、コンピューターのアプリケーションを使ってコミュニケーションするものの2種類があります。それぞれの作業内容に対応した教材やグループ分けの準備を的確に行う必要があるため、事前に先生に十分確認し、誤解をしないよう注意しています。
 当日は、グループ分けやパソコンの操作補助、ミニッツペーパーの整理を主に行います。グループワークは、友人同士が固まらないよう気をつけながら、時には複雑な形にグループ分けをする必要があり、学生の出席状況を見た上で適宜柔軟に対応するためTA業務の初期の頃は戸惑うこともありましたが、今年度は昨年度の様子を思い返すことができるため、少し余裕を持ち授業に臨めるようになったと感じています。
 文系学部のTAの場合、授業中のグループワークにTAが入り議論を促進する役割を果たしていることが多いように思います。しかしながら、この授業で行う実習やグループワークの対面型のものは、身近な意思決定を題材としたものが多いためか、学生は自発的に活発な議論をする傾向が強く、私が学生の間に入り議論を促進させるような声掛けをするということはまずありません。また、コンピュータを用いた集団意思決定実習は、比較的複雑な意思決定課題が与えられるため、学生は自然と真剣に取り組んでいます。こうした授業形態であるということもあり、私はTAをする上で”授業をスムーズに進められるよう小さな事に気付く”ということを最も心がけています。具体的には、学生がパソコン操作に遅れていないか、あるグループだけが極端に遅れていないか等、学生の様子に気付き、そこを改善するよう行動しています。

②授業内容とTAとしてのやりがい
 
以下に、この授業で行った意思決定に関する実習と私の業務をご紹介し、その中で感じているTAとしてのやりがいについて述べます。
■クロスロードゲーム■
 クロスロードゲームとは、災害時の対応等のジレンマを伴う場面において、自分はどのように意思決定するのか、また他の参加者はどのような決定をするのかについて数人で話し合い、異なる意見や価値観への気づきを得ることを目的に開発された小さなカードゲームです。授業は2週続けて行います。前半の週では学生は既存のクロスロード課題について意見交換をし、後半の週では学生自らがリスク問題となる課題を考えて参加し、それを他の学生と共に各々の考えを共有します。
 この授業は、昨年度初めて実施したため、教材を一から作成しました。まずはクロスロードの内容や手順を把握することから始め、問題文の入力やカードへの印刷、最終チェック等を行いました。準備段階では、「学生は理解してくれるのだろうか、興味を持ち取り組んでもらえるだろうか、実際にはどのように進められるのかイメージが湧かない」等の不安がありました。しかし、開始直後は緊張していた学生が活発に意見を交わしたり、学生自身がいくつものリスク問題を考え参加していたり、授業内容について一歩踏み込んで書かれた感想を読むと、私は自分が携わった教材によって、学生の学びに少なからず貢献できたのではないかと感じ嬉しくなりました。

■社会的ジレンマ実習■
社会的ジレンマ実習は、個人の意思決定の結果は、自分だけでなく他者の意思決定にも依存するという意思決定における相互依存性や、個人と集団の利益の葛藤である社会的ジレンマ問題を理解するために作成された実習プログラムです。この授業は、講義による解説も含めて4週続けて行われます。前半の週では学生は個人で、後半の週では3~4人のグループで参加し、最後の週にグループで実際に意思決定に関するゲームを新たに考え提出します。
 この実習は複雑なルールのゲームをプレイするため、短時間で内容を理解し同じグループの人と作戦を練る点が難しく、学生は不安な顔をしていました。しかし、実習が進むうちに試行錯誤でも他の学生と協力をし、次第に楽しそうに学んでいる様子が伝わってきました。また、特に自分たちで新たに意思決定に関するゲームを考え出すという回の授業では、苦戦している姿が見受けられましたが、終盤にはよりよいゲームを作成しようと活発に議論し合っている姿がありました。私はそのような姿を見ているだけで嬉しくなりました。
 もちろん授業の目的によっても異なるため、一概には断定できませんが、やはり講義形式の授業だけではなく、授業内容について実際に自分たちで悪戦苦闘しながら考えまとめる授業形態は、学生の実習を深めることに繋がっているのだと感じます。講義形式の授業では、学生は友人同士が隣り合い受講することが多いと思います。しかし、この授業の実習では友人同士で固まらないようグループ分けを行うため、学生はそれまで話したことのない人と協力し合いながら取り組むことになります。実習が進行する中で学生同士の議論が自然と活発になり、ミニッツペーパーに「実習を通して異なる考えがあることが実感できた」というような新たな気づきに繋がる意見が書かれていることがあります。このような実際の体験を通じて得られた学生の新たな視点への気づきは、講義形式の授業ではなかなか得られないことだと思います。このようなとき、私はTAとして行った様々な業務は、この授業形態に陰ながら貢献できたのではないかと感じます。
 さらに、授業の感想や到達度テストの時に直前まで内容を確認し一生懸命答案に取り組む姿からは、学部生の頃の自分自身と重なり懐かしくもあり、私も日々の研究活動への刺激を得ることができます。時には授業後に先生と学生が戸惑っていた点や、学生の学習態度等についてお話をすることもあります。こうしたことは、授業を受けている立場では感じられなかったことであるため、TAに携わり新たな視点に立てることに喜びを感じています。
 TA業務をよりよいものとするため、今後は日々感じている自身の課題を踏まえ業務に携わりたいと思っています。