各種取組み

TSネットワークTA研修TA通信実践事例

TA通信第9号

「自分のため」のTA

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大塚尚也(システム理工学部「熱・統計力学演習」TA)

 私がTAをするのは、今期で4期目になります。理工系のTAは、今期やっている「熱・統計力学演習」のように、理工系授業中に行う演習問題に対して担当教員と共に受講生にアドバイスをする場合が多いです。現在は、授業が行われる2、3日前に担当の先生から授業で学生が解く問題をいただき、その問題のポイント・注意点などを自分なりに解説できるようにして、講義に臨むようにしています。文系のTAは受講生のディスカッションを手伝ったり、時には一緒になってディスカッションをしたりする事が多いそうなのですが、理工系の場合はそういったことよりも「受講生に教える」という色が強いので、質問に的確に答えるための講義の前の予習の時間は非常に大切な物だと考えています。

 私が、講義中いつも気を付けているところは、受講生にどの辺りまでアドバイスをするかというところです。受講生には自分で解けるようになってほしいので、TAが教えすぎることは望ましくありませんが、受講生が自分なりに納得して問題を解いていってもらえるようにアドバイスしないといけません。そのあたりの押しと引きが難しい所ではありますが、自分なりに学生に適したアドバイスをするようにしています。そんな中で質問してくれた受講生が「ありがとうございます。」と言ってくれた時は非常にうれしく思います。

 しかし、課題を感じていることもあります。受講生に対して「どうしようかなあ?」と対応に迷うこともあります。学びたいという意欲があって、それでも分からない所がある場合は、解説しやすいのですが、課題が難しそうだからモチベーションが下がってしまい、質問すらしないという受講生に対する対処です。こういった受講生のモチベーションをどうあげるのか。また、それ以前に受講生のモチベーションを上げるのはTAのやるべきことなのか。問題を解こうという気があればいくらでも質問に答えるのですが、解こうという気が無い受講生にどう対処をしていくのかは、今後の自分の課題だと思っています。

 最後にTAとして自分が心がけていることとTAをやって良かったことを書きたいと思います。TAは「担当の先生と生徒との間の橋渡し」、「先生よりTAの方が質問しやすい」、「担当先生の補助」というような、講義や講義を受ける生徒やための存在だと考えている方が多いと思いますが、私はそうは思っていません。僕はTAに関わる事をする時、いつも「自分のため」と思ってやっています。元々、TAをやろうと思ったきっかけが「同じ学科の後輩と喋ってみたら新しい発見があるんじゃないかなぁ」という事だったのですが、実際講義で受講生の話を聞いていると自分があまり考えていなかった疑問が聞けることもありますし、そんな考え方もあるんだと思うなど自分が成長することがとても多いです。また、問題に対する自分なりの説明ができるようにするための時間は、かなり自分のためになっています。理工系の場合、研究にかける時間が多くなってくると、研究に関連する箇所ばかりを学習するようになり、学部の1、2回生で行うような基礎的な知識を学ぶためにじっくりと時間を割いて取り組むというのを、ついついしなくなります。そういった中で、昔使った教科書やノートを引っ張り出して問題を解いていく時間は、「学習者支援のため」でありながら、私自身の普段狭くなりがちな視野を広げるための非常に貴重な時間になっています。

 また、講義に向けての準備をする時間は私自身の研究にも非常に役に立っています。研究にかける時間が多くなってくると研究に関連した学習ばかりをするようになり、学部で行うような基礎の部分を、じっくりと時間をかけて取り組むといった時間が取れなくなります。しかし、研究に使う式を導出したり、研究によって示された結果が妥当なものであるのかを評価したりするときなど大まかな考えをまとめるときには基礎の考え方というのは非常に強力な武器になります。そういった、ある意味「研究の土台」である部分をもう一度見つめ直せる時間をTAという仕事を通して持つことができると思いますので、今後TAをしようかどうか迷ってる人は参考にしてもらえれば幸いです。

 TAをする際に「受講生のためにこうしよう」とか考えることは大切なことだと思いますが、どうしたら「自分のために」なるのか、どうしたら「自分の成長」につながるのかを考えることで、自分の能力が自然と上がり、如いてはそれが「受講生のために」というのに一番の近道になるんだと私は思います。