各種取組み

TSネットワークTA研修TA通信実践事例

TA通信第7号

学生との「掛け橋」

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大谷 祥一(文学部「世界史専修ゼミ」TA)

 僕がTAをさせて頂くのは今回で7期目になります。今年担当しているのは、2回生配当の、文学部の朝治啓三教授の「世界史専修ゼミ」です。これまでにも、朝治先生の担当された授業で、3回生の西洋史演習ゼミ、イギリス文化史においてTAをさせて頂きました。
 実は、初めて3回生のゼミのTAをした時には、ゼミのTAがどのようなことをするのか僕はピンときませんでした。西洋史のゼミは、学生の発表が中心になるので、そこで自分に何ができるのだろうかと思ったものです。この時、先生から依頼されたのは、「学生の作った発表レジュメをチェックし、あるいは発表を聞いて、その内容に不備や間違いがあれば直し、また、発表したテーマで取り組むのに必要なことをアドバイスして欲しい」というものでした。最初の授業で、先生が僕を学生に紹介した際に、「TAさんは若くて皆さんと年も近いので気楽に相談して下さい」と話されていたのを聞いて、「自分に期待されているのは、先生と学生の間を取り持って、学生の視点に近い立場で指導することなんだな」という認識を持つようになりました。
 
 この時は、「レジュメを作成する際の文書の形式の指導」や、「どう書けばよりわかりやすく、より伝わりやすくなるか指摘すること」、そして、「そのテーマに必要な文献や研究者を紹介すること」でした。もちろん、厳しいことを言うこともありました。学生の選んだテーマによっては、それで続けようと思っても文献がない、もしくは日本人の研究者がいないので、欧文の論文や研究書を読まなければならないものもあります。そういう時は、その旨をはっきりと言うように心がけました。そのまま何も言わずに4回生になって、いざ卒業論文に取り組む時になって初めて欧文の文献しかないことを知ったのでは学生が大変だと思うし、指導する立場として無責任だと思ったからです。3回生のうちにそのことを知っていると、それでもそのテーマでやりたければ欧文を読む覚悟ができますし、そうでなければ他のやりやすいテーマに変えることもできます。また、文献が全くない場合でも、文献がないからできない、と言うのではなく、同じ様なテーマで、時代をずらせば文献があるとか、他の国や都市に関してなら文献があるという提案をして、学生の意欲を削がないようには心がけました。なぜなら、学生がいくつかの選択肢の中から、最終的に自分で判断をすることで、自分で選んだテーマだという自信と意欲を持って、研究に取り組んで欲しいとは思っていたからです。こうした思いが伝わってか、実際に、何人かの学生さんに熱心に相談に来てもらったことが嬉しい記憶として残っています。
 
 そして、今年担当しているのは2回生のゼミです。これまで受け持った2回生のゼミでは専攻も決まっていますし、4回生になった時に卒論のテーマにするものを絞り込んでいくという明確な目的がありました。しかし、今回のゼミの学生は、まだ専攻が決まっていない、というのがこれまでとの大きな違いです。ただ、前期は7人、後期は4人という少人数のゼミですが、内容は濃いものになっていると思います。前期は日本語の本を読んで、各自が分担した部分の内容について要約したものを発表するという内容で、後期は英語のテキストを使い、ひとりが1ページを担当して内容を訳し、その訳を発表してもらいながら授業を進めるというものです。僕の仕事は、学生の作成したレジュメや訳をチェックして間違いを直し、授業の際に先生から求められればコメントを述べることです。英語訳とは言っても、語学の授業ではないので、もちろん文法や単語の訳の間違いは指摘しますが、それよりも、誰でも知っている一般的な単語でも、定冠詞が付いたり大文字で始まったりするだけで、歴史上の特別な用語になる、といったような、歴史に関するテキストを読むために必要なコメントをするようにしています。
 
 今でも、自分に求められているのは先生と学生の間をつなぐ「掛け橋」の役割だと思っています。しかし、ただ学生に指導しているだけでは一方通行です。ですから、授業中に、先生の話が、学生の子には難しいな、伝わりにくいな、と思ったときには、自分で手を挙げて、あるいはコメントを求められた時に、わかりやすく補足したりもしています。それでこそはじめて、先生と学生の間を双方向でつなぐ橋の役割を果たせるのではないかと思っています。また、こうして、先生と僕とで模擬ディスカッションをすることで、大学のゼミの雰囲気を肌で感じてもらえたらいいな、とも思っています。
 
 最後になりますが、指導補助という役割上、学生にコメントすることが多いのですが、その際には間違いを指摘するだけではなく、良くできた部分を見つけて褒めるように心がけています。そうすることで学生の子に意欲を持って取り組んで欲しい。TAに取り組む時の、僕のささやかな心構えです。