私は、幅広い専攻の学生のいる講義で統計学を教えるときには、統計学の計算そのもの以上に、「統計学の計算は、どういうつもりで何をやっているのか」という、いわば「統計学のこころ」を説明してきました。
「統計学のこころ」は、数学で書かれています。自分の講義では、取っつきやすくするために「ここで用いる数学は、+、−、×、÷、平方根、累乗の6種類のみだよ」と最初に説明しています。しかしそれでも、平均の計算で∑記号(総和)が出てきたらもうだめ、という受講生が、残念ながら少なからずいます。そこでつまづいたのは、数学ができないからではないのです。ただ、数学での記号の使い方や数学の「ものの言い方」を知らなかった、あるいはたまたま忘れていただけなのです。それだけのために、統計学に接する機会を失ってしまうのは、とてももったいないことです。
そこで本書では、「統計学のこころ」を学ぶ前に、数学準備編として「数学のこころ」を説明する章を用意しました。そこでは、「数学の本を読むとは」という説明から始めて、数学の論理と日常の論理の違い、変数と定数、さらに数学でよく用いる「ギリシャ文字」の説明をつけました。そして、上にあげた累乗や平方根、それに∑記号のような独特の表現のしかた、さらに関数と微分・積分の考え方も説明しました。
このような数学の準備運動のあと、統計学の説明に進みます。ここでは、集めたデータが「ただ大小バラバラなのではなく、どうバラバラなのか」を分析する「記述統計学」を説明し、さらに、確率の考えにもとづいて、集めたデータを使って集めていないデータまでも分析する「統計的推測」を説明します。
統計学の入門書を執筆するのは、これで3冊めです。今回は、前2冊とは違い、「数学準備編」をつけました。統計学の入門に必要な数学を解説する本は、一度書いてみたかったものです。私は、統計学を知るためには数学は必要だと考えていて、「数式を使わない~」には反対です。ただ、数式への抵抗感を少しでも減らしてもらえれば、と思って、この本を書きました。
なお、本書の執筆の一部は、平成28年度関西大学研修員となり、研修費を受けて研究・執筆活動に専念していた期間中に行いました。