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松下国際財団から2年間の留学支援をうけ、インドはデリー大学で2010年9月から留学を開始している。ここデリー大学で、インドの大学教育システムの現状と諸問題を垣間見せる興味深い事件が起こったので、紹介しよう。

それはデリー大学教員組合による講義ストライキである。2010-2011年度からデリー大学の多くのカレッジ、特に理系13コースの学士レベルに、1年を2学期に分けるセメスター制度が採用され、それの中止を要請するストであった。組合によれば、同制度によって各学期の授業コマ数の激減、それによる詰め込み教育の助長、また学期間ごとの試験の倍増などで、学生に相当の不利益が被られるという。

同大の学生にとって教員によるストライキは「日常茶飯事」と言われているが、今回はそれが時期的に中間試験に重なっているので大きな話題となった。ストの期間は10月25日(月)から29日(金)までの5日間だったが、その後1週間程度その余韻が影響してか多くの講義が休講となった。また今年はインド初の開催となったコモンウェルス・ゲーム2010(イギリス連邦に属する国や地域が参加する4年に一度の総合競技大会)のためデリーの全大学が開催期間中(10月3日~14日)休校となり、また11月5日のディーワーリー(ヒンドゥーにとって最大の祭の一つ)でその前後数日間大学は休みとなった。通常より少ない授業日数と、ストライキによる2週間弱の休校状態の後にもかかわらず、11月8日から中間試験は粛々と開始された(この状況に対し同大の各学生組合から様々な批判がでたのは言うまでもない)。

今回のストは突然行われたというわけではない。この案件はすでに2009年頃から続く問題だったようで、かなり反対意見が多かったにも関わらず、前任の副理事長(Vice-Chancellor)の辣腕により2009―2010年度から修士以上のコースで導入されたという経緯がある。以降、大学運営側と教員側との間で同意・妥協に至らずストが行われたのだが、その開始直後、元教員の一人(Prof. M. S. Gupta)がデリー大学と教員組合を相手どり公益訴訟(Public Interest Litigation)を訴求したことで、この事件は大きな社会的注目を浴びた。裁判での両者の訴えは以下のように要約できる。教員側の訴えは、大学の運営側によって「強行的に」導入されたセメスター制の違法性および、教員による「ストライキを行使する権利」の合法性である。大学側は、十分な審議を経て導入された同制度の拒否、講義のボイコットは学生にとって不誠実かつ不利益なため、ストライキに従事した時間分給料が減らされる方針を掲げた。判決の結論はというと、教員側の訴えの大部分が退けられ、その「ストを行使する権利」よりも学生の「学ぶ権利」の優位性が認められた。中間試験を「人質」にとるようなストは公共性・社会性を逸脱した悪しき行為とされ、11月6日までの停止命令が下された。また同大学のスタッフおよび教員が学期制度を尊重する旨も明示された。一方で妥協案として、同制度の是非についてより時間をかけた平和的な解決のための「討議委員会」の設置と、6日までにストライキを停止した教員への賃金不払いを寛容する旨が大学側に要請された。

中間試験前にストが「無事」中止されたとはいえ、学生にとって試験への被害はかなりあったようである。今回のセメスター制度、大きく言えば大学の制度改革をめぐる紛争において、「学生の利益」や「学ぶ権利」が双方から盛んに競われたとはいえ、結果的に一番の被害者はこの紛争に振り回された当の学生であったと言える。教員側によると、一連の制度導入が、一昨年ほど前から盛んに論議されてきた「デリー大学の民営化」の一環であると主張され、大学の組織改革による教員の解雇と授業料の値上げなどが今後も段階的に進められるだろうとのこと。この主張に関する真偽のほどは定かではないが、国立大学はもとより、私立大学などの運営においても政府からの公費補助は不可欠と言われるインドの大学システムにおいても、変革のうねりの到来を感じさせる事件であった。本判決詳細はデリー大学の公式サイトにおいて11月19日付で報告されているために興味がある方は参照されたい。
Prof. M. S. Gupta vs. University of Delhi and Ors, W.P. (C) 7248/2010 (http://www.du.ac.in/fileadmin/DU/Events/HighCourt_semester_judgement_19112010.pdf)
田中鉄也(関西大学博士課程後期課程)


副理事長オフィス
旧イギリス領インド副王・総督のデリー官邸であったが、1933年にデリー大学へ移譲。3500万ルピーとも言われる補修・援助金により現在の形に修復。副理事長のオフィスの他、重要な役職に就く他の教員・職員のオフィスがあり、同大学行政の中心部とみなされている。10月末のストライキでは教員組合が同オフィスの前に陣取り、副理事長をはじめ大学執行部へデモ活動を行った。

 

 


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