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「国家形成とマイノリティ」研究班
第5回研究会

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紀要

 

「国家形成とマイノリティ」研究班
第5回研究会

                      
9月29日に国家形成班主催の第5回研究会を関西大学以文館41共同研究・演習室において開催した。蔡孟翰氏(千葉大学大学院人文社会科学研究科 特任准教授)が第一報告(英語)を、宇羽野明子氏(大阪市立大学大学院法学研究科教授)が第二報告を務めた。

第一報告「Two Views of Foreigners and Minorities in Imperial China-A Genealogy of Modern East Asia (中華帝国における外国人とマイノリティをめぐる二つの視座ー近代東アジアの系譜学)」は、中華帝国をめぐる東アジアの長期的構造に注目し、そこにおける外国人とマイノリティに対する二つのモデルを指摘するものである。報告者によれば、中華帝国の国内・国際秩序は、漢・唐の時期と明・清の時期とでは対照的であり、後者は前者の否定の上に成立し、「中国人」というアイデンティティの形成も専ら後者に関わる。

後者のモデルは「華夷秩序」或いは「中華思想」として知られているが、通説と異なり、「華内夷外」の原理にもとづく中国優位の新たな多元的国際秩序を形成すると同時に、中国自体については領域を拡大することなく国境管理を厳格化し、国内においては、外国人を排除し、非儒教的文化を制限し、少数民族の自治を弱め、同化を強いる傾向にあった。

本報告は、これとは対照的な、拡張志向で「開放的、流動的、他民族、多文化、コスモポリタン的、競争的」な国内・国際システムがかつて存在したことを示唆し、そこでは外国人やマイノリティは差別されることなく、政府高官としての登用も頻繁に行われたことを指摘する。さらに、そのようなシステムが崩壊していく転機として、安禄山の乱に注目する。

以上の検討を通じて、蔡氏は何らかの国民性を所与の本質とする見方を退け、「中国人」なるものが歴史的に構成された点を強調すると同時に、従来、西欧をモデルとする近代化論の延長線上にナショナルなものや国家形成を論じようとする視点が東アジアにおいて歴史的に見てどの程度有効性を持つのか、問題提起をしていると言えるだろう。

続く第二報告「16世紀フランスの政治的寛容への一考察」は、この時期の「寛容」論の理論的展開の陰に隠れ、非理論的・便宜的なものとして低い評価しか与えられてこなかった宗派共存のための日常的・政治的実践に光を当てる。まず宇羽野氏は、16世紀の「寛容」概念が、「悪(不快なもの、嫌悪すべきもの)」の存在を前提とし、本来は否定し排除すべきものを敢えて承認するという、ネガティヴな意味合いを持つにすぎなかったことを指摘し、当概念の現代的用法との違い、概念の歴史性を強調する。

さらに本報告では、「政治的必要としての寛容」という観点から、「公民citoyen」概念に注目する。そして、ロピタルの演説などに看取される「キリスト教徒でないものも多くは公民でありえるし、破門されたものでさえやはり公民であるのだ」という表現や、「兄弟として、友人として、同胞市民として、一緒に平和に暮らすこと」を勧める王令の中の表現の政治的機能が検討される。さらにキケロの「友愛」の概念の援用についても光が当てられる。これらの表現は、宗派の別を越えて相互承認された国家構成員、脱宗教化した「公民」形成を促す実践的な試みとして理解されうるものであった。また、このような共存に向けた実践の蓄積こそが、「寛容」概念が受容される素地としての共通の経験を形成したとも言えるであろう。

本「国家形成」班の問題関心との関連で興味深いのは、このような政治的実践の担い手として王権が浮上してくることである。地方における宗派共存の実践においても「仲裁者としての王」が重要な役割を果たすが、このことは、都市や地方の制度の自立性を剥奪する中央集権化と接続してくる。さらに「公民」による共存とは、あくまでも王国の法に基づき、各宗派ではなく王国に帰属する構成員を生み出すことでもあった。以上の宇羽野氏の研究は、共和主義とは区別される君主政治の下での共生の作法を抽出しようとする、近年の宮廷研究とも繋がるようにも思われる。

安武 真隆(関西大学政策創造学部教授)

 


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