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研究員の研究活動
「フランス・パリ出張」

今回のパリ出張の目的は、主に二つある。ひとつは、20世紀前半に活躍した国際法学者ジョルジュ・セルのマイノリティ論についての研究調査である。社会的諸集団の連帯を基礎として規範が定立・実現され、それらさまざまな規範群の複合体として、普遍的な法秩序が存在している、というのが彼の法秩序構想の骨子である。すなわち個々の人間がさまざまなレベルで参加している多様な社会集団――家族・組合という小さなものから、国家・国際社会という大きなものまで――のそれぞれに法規範定立・執行権能を認めている。このような法把握は、当然に、いわゆる「中間団体」の法的地位の承認を伴い、〈主権を有する国家〉と〈人権の担い手としての個人〉という二元的秩序構成を否定するものといえる。マイノリティの権利という観点からすれば、マイノリティたる属性を有する個人の権利という、従来の支配的な理解を越えて、マイノリティ集団そのものの持つ法的権能という構成を可能とする点において、理論的な重要性を持つ。今回は、19世紀から20世紀前半にかけての東欧新独立国におけるマイノリティ保護を規定した諸条約――マイノリティの利益保護という意味と、西欧大国による東欧への干渉の手掛かりという意味を併せ持つ諸条約――の解釈としてセルの理論が有する意義について、文献調査を行った。

もう一つの目的は、グルノーブル第三大学との研究協力の可能性について協議することだ。本センターの蔡孟翰研究員を介して、グルノーブルのクレベール・ジミール教授より研究協力の打診があり、その詳細を検討するために教授のもとを訪れた。そこで確認されたおもな内容は、①国際連合においてながく研究プロジェクトの企画・統括をおこなってきたジミール教授の知見と人脈を活かして、移民問題を中心とする欧州のマイノリティ問題についての研究プロジェクトを実施し、その成果を本センターの紀要『マイノリティ研究』誌上において公表すること、②フランスの研究者を本センターに招いて、欧州の多文化主義についてのセミナーを行うこと、である。後者については、1回限りのシンポジウムではなく、1週間程度の期間をかけて、欧州の研究状況について時間をかけて紹介してもらう機会を設ける方向で検討している。そうすることで、本センター研究員の研究交流のみならず、日本の若手研究者や大学院生が欧州の研究状況に直に接する機会となることを期待しているからである。

パリの空港では預けた荷物が出てこず(2日後に届いた)、大阪では体験できないような厳しい寒波に見舞われた多難な出張であったが、個人の研究調査としても、センターの研究交流としても、大きな成果を得たように思う。


『写真説明』
パリの楽しみは、美術館巡り。美術史をたどりながら時代の精神に思いを巡らす。たとえば、理念的な造形を否定し、感覚器官によって受容される光景を客観的に分析してキャンバスに再現しようとしたモネの精神は、たしかに、形而上学的理念を批判し、規範認識の客観的記述を志向したケルゼンに通じるものがあるように思う。

西平等(マイノリティ研究センター主幹、関西大学法学部准教授)

 


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