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第13回マイノリティ・セミナー

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第13回マイノリティ・セミナー
「ニッポン猪飼野ものがたり」

                      
 第13回マイノリティ・セミナーは、猪飼野の歴史と文化を考える会により編集された『ニッポン猪飼野ものがたり』(2011年2月、批評社)の著者3名を報告者に招き、関西大学人権問題研究室との共催により、2011年6月11日(土)に関西大学児島惟謙館第1会議室において開催された。

 これまでのマイノリティ・セミナーは、研究者や学者がさまざまな形でマイノリティを論じるというスタイルで開かれてきたが、今回のセミナーは『ニッポン猪飼野ものがたり』の著者が語るマイノリティの歴史や文化、まちづくりなどの報告をもとに、マイノリティがマイノリティではない人々と新しい世界を築いていく場合にどのような試みとどのような問題があるのかを考えるというスタイルで開かれた。

 第1報告の小林義孝氏は、大阪府教育委員会事務局の文化財保護課に考古学の専門職員として勤務し、地域文化を活かしたまちづくりを推進している。『ニッポン猪飼野ものがたり』発行において重要なコーディネート役を担った。

 小林氏がまず紹介されたのは、猪飼野の歴史についてである。1920年代に平野川が改修され宅地化される過程で町工場もたくさん建ち、低所得者層の長屋などには在日コリアンが集住しはじめた。当時の町工場には、パナソニック創業者の松下幸之助が電球ソケットを製造した工場もあり、ヘップサンダル(踵の部分にベルトなどのないサンダル)のほとんどはこの地で作られており、日本を支えた町工場の技術者がたくさんいたと言う。猪飼野の在日は強制連行で連れてこられたとか、平野川改修の際の労働者が住み着いたなどという言説から発生するイメージとは異なる歴史的事実と言えよう。

 近年みられる変化として、2世、3世となるに従って日本に終の棲家を求めようとする意識の高まりが感じられると小林氏は指摘する。たとえば、御幸通りの出発点にある神社には地元からたくさんの初詣参詣者が訪れており、だんじり祭りではだんじりの周りで盛り上がる姿がコリアンタウンの中心で見られる。日本に伝統的な祭りに在日コリアンが参加することに違和感がなくなっているのである。

 第2報告の足代健二郎氏は、あじろ書林の店主を務めつつ、「猪飼野著名人番付」において松下幸之助、司馬遼太郎、くいだおれ太郎など多くの著名人と猪飼野とのかかわりについて紹介してきた。また、『ニッポン猪飼野ものがたり』では、猪飼野の歴史と文化を考える会の代表として総論部分を担当し、「猪飼野とは」(小林氏との共著)や「猪飼野の風景」などを執筆した。

 猪飼野に67年間住み続けたという足代氏によれば、足代氏が通っていた当時の小学校では在日が半分くらいの割合であったという。小学校の先生に聞いたところ、現在では7-8割の生徒が「朝鮮半島にルーツを持つ」という。このうち半数の生徒が日本国籍を持つため、このような言葉でないと正確に表現できなくなっているのである。
 足代氏は、猪飼野では在日と在日でない人々とが混在しており、決して完全に混じり合っているわけではないと指摘した。国際化への対応力が問われる日本において、このように異なる文化が混在することを日常として積極的に受け止められるかどうか、これは日本の国際化のリトマス紙と言えるのではなかろうか。

 第3報告の鄭甲寿氏は、猪飼野の中でも最も多くの在日コリアンが集住するコリアタウンで生まれ、朝鮮と日本の文化が混じり合う朝鮮学校で教育を受けた。鄭氏は、自らが実行委員長を務めるワンコリア・フェスティバル(以下「ワンコリア」と略す)が開かれるようになった背景や思想遍歴、鄭氏が追及するアジアの未来像などについて報告された。
 「ワンコリア」は、在日による統一運動は停滞するなか新たな展望を切り開くため、発想の転換と新たな理念・ビジョンを求めて1985年にはじめて開催された。1年目には3日間で延べ1000人にも満たない参加者ではじまったが、1999年に生野コリアタウンでの開催を実現すると参加者は1万人規模になり、さらに大阪市の招請により大阪城公園・太陽の広場に会場を移した2002年には2万人を超え、今では3万人もの人々が集まる一大イベントに成長した。

 「ワンコリア」の特徴は、この運動が単なる祖国統一を願うイベントとしてではなく、市民的自由や人権、民主主義という人類の普遍的な価値が実現される統一を目指したイベントであり、その先には「アジア市民」という夢と理想がわかりやすいビジョンとして示されている点にあるのではなかろうか。そしてこのような理念や思想に支えられたビジョンが、民族や国籍、アイデンティティなどで悩みぬいてきた在日コリアンによって語られることによって、さらに説得力を増しているように感ずるのは筆者だけであろうか。

 以上3つの報告の後、聴講者を交えた質疑応答が熱い議論に発展する場面もあったが、ここでは紙幅の関係上割愛させて頂く。

櫻井 次郎(関西大学マイノリティ研究センター特別任用研究員)

 


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