写真は、渡辺靖『アメリカン・デモクラシーの逆説』(岩波新書、2010)で紹介されている、ボストン南部のダドリー地区の壁画。先日、筆者がボストン出張を行った際に撮影した。渡辺・前掲書の説明によると、同地区は、黒人37%、ラテン系29%、カポ・ヴェルデ人25%、白人7%と、人種・民族的に多様である(同上、106-07頁)。
70年代、この地区はボストン有数の犯罪多発地域であり、「絶望のスラム」だった。
しかし、80年代に、ダドリー・ストリート・ネイバーフッド・イニシィアティブ(DSNI)と呼ばれるNPOが住民主導で組織され、「奇跡の再生」を果たした(同上、105-06頁)。このNPOの住民理事枠は、主要民族集団ごとに均等配分されており、印刷物が3言語表記されるなどの工夫もなされている(同上、107頁)。
筆者は、この地区にあるHaley Houseというベーカリー・カフェに立ち寄った。このカフェは提供される食事にも定評があるのだが、何より、刑期を終えた人々やホームレス等に対し、職業訓練プログラムを提供し、積極的に雇用を試みているところに特色がある。写真の壁画は地域の老若男女の姿を描いたもので、今まで一度も落書きされたことがないと言われている(同上、106頁)。
奈須 祐治(佐賀大学経済学部准教授)