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「市民権とマイノリティ」研究班 四国研究合宿
(「国際関係とマイノリティ」研究班合同)

2010年2月5日、6日の両日にわたり、第3回研究班合宿・研究会を四国の四万十市および高知市で開催した。

2月5日、四万十市役所において、①四万十川の利水、治水、浸水、そして親水の歴史、②四万十市の環境、景観と「住民」参加、に関する研修会を同市地球環境課および人権啓発課の担当者の方々の参加を受けて開催した。豊富な資料に基づく丁寧な説明をお聞きし、質疑応答をおこなった。近年注目されるようになった四万十川をめぐる歴史も、流域の住民、市町村の利害を調整、克服しようとする積み重ねのなかで理解されるべきであり、なお、残された課題も多いことが具体的に説明された。また、「観光」は、地域住民の生活基盤の充実(とりわけ第1次産業の振興)を前提としてこそ意味のあるものであり、その活性化、地域への「誇り」の手がかりと位置づけられるものではないかとの指摘には共感を覚えた。同市は、2009年3月、「四万十市人権施策行動計画」を策定し、「人権尊重の社会づくり」を進めている。多様な地域コミュニティを育み、行政区域を越えた連携によって四万十川流域の「住民」自治を発展させることこそが世界に発信しうる地域づくり、まちづくりにつながることを期待したい。

同日午後4時30分から新ロイヤルホテル四万十において研究会を開催し、李侑峰(Eubong LEE)氏(ソウル大学講師)がThe Environmental Justice for Minority in Global Warming Eraと題する研究報告をおこなった。地球温暖化と国際的な対応の現状と課題、そしてそのグローバルな解決への合意にむけての枠組形成と共通了解の可能性、さらには環境倫理にかかわる「正義論」の確立にも論及された。「国益」、「先進国・発展途上国」の構図を克服することの困難さと展望の可否などが論議となった。


李侑峰氏

2月6日は、高知大学において研究会を開催した。この研究会では、2つの研究報告がなされた。1つは、青木宏治氏(高知大学教授)による「アメリカ公教育における人種差別の根深さとその解決――連邦NCLB法を中心に」である。青木氏は、学校と人権にかんする多くの論考を著され、とりわけアメリカ合衆国の教育・学校改革と人権をめぐる研究の第1人者といわれている。報告では、アメリカにおける人種隔離差別(segregation)教育とその克服についてPlessy判決(1896年)、Brown判決(1954年、1955年)などをふまえNo Child Left Behind法(2001年)その他の法律の説明がなされ、それが統合(integration) にストレートに結びつくものではないこと、教育にかかわることに連邦が関与することには否定的な傾向が強いこと(法的な管轄事項の問題にとどまらず)、さらには、教育の問題は法的なアプローチだけでは十分にとらえることができず、当該社会の文化や歴史を理解していなければならないこと、などが説得的に説かれた。

もう1つの研究報告は、光信一宏氏(愛媛大学教授)による「フランス法におけるマイノリティ」である。光信氏は、フランス憲法の研究者として知られているが、近年は、「フランス憲法第1条と民族的マイノリティの権利保護」と題する論文も公表されている。光信氏は、事実として「多文化」社会であるフランスが、「一にして不可分の共和国」にこだわる憲法史的経緯とその思想を概観した後、「マイノリティの否認の法理」を具体的に説明された。そして、サルコジ大統領の誕生による最近の「多様性」をめぐる論議、「フランス社会の多様性に、より大きな価値を認める新しい統合政策をおこなえるようにすべきか」(2009年1月諮問)などを挙げつつ、青木報告とあわせて論議できるよう問題点をまとめられた。ここでも「統合」をめぐる論議がおこなわれた。光信氏は、「多様性」をめぐる政策については機能的に対応しようとしている点でアメリカと同様の傾向にはあるが、共和国「理念」は、堅持し、譲れないとするのがフランスの主流的見解であり続けるのではないかとされた。


青木宏治氏(左)と光信一宏氏(右)

まとめの討論のなかでは、「マイノリティ」を手がかりに論ずることの意味についても改めて論議となった。とりわけ、フランスにおいては強い色合いとレッテルが貼られているこの「言説」で、あえて国民国家(Nation-State)の限界と将来像を研究することの意義を考えたい旨の主幹のとりまとめがあった。

(なお、この研究合宿に先だって、愛媛大学、宇和島市、児島惟謙関係地などでの調査・ヒアリングにより、ナショナリズムとマイノリティにかかわる予備調査もおこなわれた。)

孝忠延夫(マイノリティ研究センター長、関西大学政策創造学部教授)

 


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