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第19回マイノリティ・セミナー

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第19回マイノリティ・セミナー
「モン族における反共主義-Hmong Anti-Communism at Home and Abroad」

                      
 6月4日(月)、アメリカにおけるモン(Hmong)族の政治的活動について、モン系アメリカ人の研究者である・チア・Y・ヴァン氏(ウィスコンシン大学ミルウォーキー校歴史学部准教授)を交えて座談会形式のセミナーを行った。このセミナーには、関西大学より、孝忠延夫氏(憲法)、大津留(北川)千恵子氏(国際政治学・アメリカ政治)、西澤希久男氏(タイ法・民法)および西平等(国際法)が出席したほか、また学外より乾美紀氏、(兵庫県立大学)大野あずさ氏(大阪経済大学)、久保忠行氏(京都大学)等の専門家や、モン族を研究する大学院生の参加を得た。

 はじめに、ヴァン氏より、モン族難民が米国に多数居住することとなった経緯について説明があった。その要旨は以下の通り。

 中国南部に起源をもつモン族は、19世紀に、インドシナ半島の北部山岳地域に移住し、今日でも、ヴェトナム・タイ・ラオスを中心に、広い範囲で生活している。インドシナを支配する植民地諸勢力に対しては、一部はフランスに協力し、一部は日本軍や独立運動に合流するなど、民族の中でも立場は、さまざまであった。第二次インドシナ戦争(いわゆるヴェトナム戦争)においても、ラオスの政治状況に対応して、米軍に協力する人々と、社会主義勢力に協力する人々に分かれていた。前者のなかには、CIAの指導の下に特殊ゲリラとして招集された人たちもいた。米軍の撤退後、ラオスにおいて樹立された社会主義政権から対米協力者として弾圧を受けたモン族の人々は、タイの難民キャンプに避難し、さらに、その多くが、当時共産圏からの亡命者を積極的に受け入れていた米国に移住した。

 この移住によって、はじめて米国にモン族のコミュニティーが形成された。当初のモン族難民たちは、米国での滞在を一時的なものと考えていた。政権が再び変更されたのち、すみやかに故国に帰還することを期待していたからである。彼らの指導層は、ヴェトナムの支援を受けたラオス社会主義政権を倒すために、反共産主義を前面に押し出し、資金の調達や世論への訴えを積極的に行った。ただし、ラオスにおける反政府ゲリラ支援という名目で集められた資金は、必ずしも、現地に届けられていたわけではないようである。

 モン族は、一般に、地方自治体・州レヴェルでは民主党を支持し、国政レヴェルでは共和党を支持してきた。というのも、社会・経済政策については民主党と、対外政策(とりわけインドシナ政策)については共和党と共鳴す
るからである。

 冷戦後の米国では、反共産主義というメッセージがあまり受け入れられなくなった。米国の対外政策の重点が、反共産主義から反テロリズムに移行するに伴い、ラオス政府の転覆を図るという在米モン族の従来の活動は、むしろテロリズムの一種とみなされるようになった。また、モン族の新しい世代は、ラオス政権を打倒してそこに帰還することよりも、米国の市民として生きることを重視するようになってきている。

 現在のモン族の政治活動は、「反共主義」という語りnarrativeではなくて、「人権」という語りに依拠している。例えば、ラオスにおいて弾圧を受けるモン族の人々の状況の改善や、国連の難民キャンプ閉鎖後、劣悪な環境でタイに取り残された人々に支援を行うために、人権の保護の必要を訴えかけていく、というやり方である。このようなやり方で、モン族は積極的に米国において政治に参加している。

 その後の座談会では、モン族の若い世代の政治的関心について、現政権下における、古い世代の帰還もしくは一時帰郷の可能性について、反共産主義の主張が後景に退いてゆく経緯と原因について、現在の米国のモン族のインドシナ問題に対する関わり方について、現在のモン族の若者の社会経済的状況について、など、米国難民となったインドシナのナショナル・マイノリティの置かれた特殊な状況についての全体像を得るべく、多様な観点からの議論が行われた。

主幹 西 平等(関西大学法学部准教授)

 


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