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研究員による著書紹介
『ドイツのマイノリティ-人種・民族、社会的差別の実態』              

本書は、そのタイトルが示すようにドイツの歴史の中でマイノリティを人種や民族、社会的視点から捉え、その差別の実態を掘り起こし、論じたものである。従来、ユダヤ人、シンティとロマ、ナチス政権の人種政策など、それぞれ独立したテーマで行われてきた研究にマイノリティという視点を与え、そのマイノリティの意味をさらに精神障害者や同性愛者、作家という職業など、社会的なマイノリティにまで広げてドイツという一つの文化圏の枠内にまとめている。この本の出版にいたる研究の母体となったのは、長年にわたり、ナチスによる検閲制度やシンティ・ロマ問題などに独自の実践的な方法で取り組んでこられた故小川悟関西大学名誉教授主催の研究会である。

本書の構成は、Ⅰ部の民族的マイノリティとⅡ部の社会的マイノリティという2つの範疇から成っている。第1章、ユダヤ人問題では、キリスト教との相克、ドイツナショナリズムによる排除、ナチスによるイデオロギー化された人種差別政策の実態を辿ることにより、古代から連綿と続くユダヤ人問題の本質と差別の構造を解き明かしている。第2章では、かつて「ジプシー」と呼ばれ、定義に未だ曖昧さを残すシンティ、ロマと呼ばれる人々の起源説を検証し、彼らがナチス時代にその人種論の犠牲となり強制収容所に送られた事実を詳細な具体例をあげて提示している。また、戦後、ナチスによる迫害の補償を求める裁判の経緯も紹介されている。第3章では、戦後の経済成長期を経て、現在、多くのイスラーム系移民を抱える移民国へと転じたドイツの社会が、そのコンセプトを「多文化社会」から、キリスト教的、自由主義的価値観に則ったドイツの「主導文化」を軸とした社会へと転換を図る中で、連邦統一帰化テスト導入に至る過程を、少子化社会へ向けて外国人との共生の道を模索する政府の外国人政策との関わりから論じている。

Ⅱ部の社会的マイノリティでは、第4章で、作家を職業としてのマイノリティと位置づけ、特に1848年のドイツ革命やナチス時代における検閲や言論の自由弾圧の経緯、それに抗する作家たちが展開する抵抗運動が論じられている。第5章では、主に19世紀以降の同性愛に関する議論を紹介しながら、ドイツ帝国の富国強兵政策のもと排除の対象となり、ナチス時代には法律によって有罪と見なされて収容所に送られた同性愛者たちを巡る状況を現在に至るまでつぶさに辿っている。最終章の第6章では、19世紀後半からナチス時代にかけて、社会における精神病者の位置づけの変化を、自然科学や優生学、遺伝学の影響下にあった当時の精神医学との関わりの中で論じている。

マイノリティに対する差別と排除の歴史は、マジョリティの社会の歴史と密接に関連しているばかりか、その社会の歴史そのものである。本書では、文化論の分野でのそれぞれ独立した研究対象をドイツのマイノリティという範疇で括ることにより、差別と排除の歴史を繰り返し、現在、共生の道を模索するに至る人間の社会の姿が浮き彫りになっている。

研究員 佐藤 裕子(関西大学文学部教授) 

浜本隆志・平井昌也編著 『ドイツのマイノリティ』明石書店 2010年
第Ⅰ部 民族的マイノリティ
第1章 ユダヤ人差別の系譜   浜本隆志
第2章 シンティ・ロマの虚像と実像 村上嘉希
第3章 移民からドイツ人へードイツ帰化テスト導入をめぐって 佐藤裕子(マイノリティ研究センター研究員)
第Ⅱ部 社会的マイノリティ
第4章 マイノリティとしての作家 平井昌也
第5章 同性愛の世界 須摩肇
第6章 ドイツ近代精神医学の罪―その誕生からナチス「安楽死」まで 北川尚

 


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