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研究員の研究活動
学会報告「バルト三国の言語政策の展開」について

6月19、20日に東京外国語大学にて開催された日本比較政治学会2010年度研究大会の分科会「言語政策の比較政治学」にて報告を行った。筆者自身の報告内容が、どうマイノリティ研究と関わるかは後で述べるとして、まずは、分科会の構成を紹介すると、第一報告:坂井一成氏(神戸大学)「EUの少数言語保護政策――東方拡大とその後」、第二報告:小森宏美(京都大学)「バルト三国の言語政策の展開」、第三報告:松田哲氏(京都学園大)「言語政策と民族対立――スリランカの事例」を司会兼討論者の今林直樹氏(宮城学院女子大学)が日本の事例を交えながらとりまとめるという形であった。

言語政策の実践が国家や地域の統合ないし分離の直接的・間接的要因となってきた事例は、数えあげれば限がない。そうした重要な問題領域でありながら、従来、言語問題をめぐって社会学や社会言語学で豊かな、しかし個別事例の研究が積み重ねられる中で、政治学、とりわけ比較政治学の議論の対象として言語政策が取り上げられることは多くはなかった。今回の試みで、比較言語政治学の可能性を探るというあくまで慎ましやかな目標が立てられたのは、そうした研究上の背景によるものである。

言語政策は大きく、国語(ナショナル)を対象とした政策と、少数言語保護を目的とした政策に分けることができる。少数言語保護では先進的と見られがちなEUであるが、その制度化に当たって様々な仕掛けが必要であったことからも明らかなように、少数言語保護については、理念は共有されていても現実の政策実施における合意を達成するのは容易ではない。ましてや、ナショナル言語の消滅に危機を覚えてソ連邦からの独立回復に踏み出したバルト三国にあっては、国民どころか政治家の間でも理解を得るのが難しい。小国である三国のそれぞれの国語に比べればはるかに話者の多いロシア語の保護とあってはなおさらである。

バルト三国では、実は問題は、少数言語の保護ではない。バルト三国のマイノリティは、通常考えられる以上の言語権をソ連時代から享受していた。問題はその妥協的縮減とヨーロッパ型の少数言語権への移行に加え、マイノリティによる国語習得と社会統合との関係にある。国語能力の不足に起因する社会的排除だけでなく、国語能力を習得しても達成されない社会的包摂をいかに実現していくか、これがバルト三国の直面する課題である。

研究員 小森 宏美(京都大学地域研究統合情報センター准教授)

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