Kansai Univ
 
市民権班合宿

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紀要

 

「市民権とマイノリティ」研究班 研究合宿

2009年2月28日から3月1日にかけ、関西大学恭仁山荘(京都府)において、「市民権とマイノリティ」研究班の研究合宿がおこなわれた。この合宿がおこなわれた恭仁山荘は、東洋・中国学の泰斗・故内藤湖南が晩年を過ごしたところである。


研究合宿では2つの研究報告がおこなわれた。1つは、守谷賢輔氏(福岡大学専任講師・研究センター研究協力者)による報告「カナダ憲法における先住民の自治権――最高裁判決を手がかりに」である。カナダにおける先住民(とりわけ、カナダ・インディアン)の土地権、漁業権などの研究を続けてきた守谷氏が、今回は「自治権」に焦点をあて、自治権をめぐる判例を手がかりに、自治権の享有主体としての先住民、自治権の根拠および内容、自治権の位置づけ、そして自治権の実現方法についての検討をおこない、先住民研究の新たな進展と方法論を提示しようとする意欲的な研究報告であった。


この研究報告に対しては、1982年憲法35条(先住民としての権利および条約上の権利)などの成立経緯、それらの解釈に関する基本的な論点についての質問から、個別の判例の内容、その審査方法論、判例としての射程などにかかわる論議までなされた。また、先住民の「権利」にかかわる問題を裁判所で争うことの意味と限界性、マイノリティ研究における、カナダの先住民研究のもつ意味などについても研究員間での意見交換がおこなわれた。


もう1つの研究報告は、榎木美樹氏(特定非営利活動法人JIPPO(十方) 事務局)による報告「亡命チベット人の国民統合――難民としてインドに流出した亡命チベット人のコミュニティ形成と維持の方途」である。榎木氏は、今回の研究報告は、①インドに居住する亡命チベット人の生活実態から、今を生きる亡命チベット人のコミュニティ形成と維持の方途についてフィールド調査をもとにすること、②このコミュニティ形成・維持の方途が国民統合の意味を持つことを明らかにするものであるとし、自らの研究手法が民際学的手法(参加型アプローチ)であるとしたうえで報告をおこなった。①の点については、「難民」となってチベット外に脱出したチベット人が亡命国において凝集性の高いコミュニティを維持していることと、亡命政権であるチベット行政府(CTA)の機構、取り組み内容を具体的に説明する中で論じられた。また、②の点については、亡命社会のガヴァナンス、亡命チベット社会における民主化の問題について問題点をも指摘しつつ説明がなされた。榎木氏は、緩やかな宗教的共同体としての性格をもち、従来の部族的紐帯ではない、「チベット人性」が創出されてきたのではないかと結論づける。ただ、亡命チベット人「社会」の将来性については不確定なものが多いことも指摘された。


榎木氏の研究報告をふまえて、まず、「難民」、「ディアスポラ」、「ナショナリズム」、「宗教と国家」などに関する基本的な問題が「チベット問題」および「チベット研究」を手がかりにおこなわれた。次に、インドにおける「亡命チベット人問題」の歴史、実態にかかわる説明と質疑・応答が活発におこなわれた。また、中国の民族政策とチベット問題についても報告者および参加者それそれぞれの意見が出され、論議となった。最後に、「亡命」によって新たに形成されたとされる「nation」(この表現が適切かどうかがまさに論議となったのだが)の「チベット人」性とは何であり、またその将来性をどのように考えるのか、などを研究課題として残すこととなった。


2つの研究報告は、いずれもそれぞれの場で「かけがえのない生」を育もうとする人々の存在と、それらの人々がかかえる問題を研究しようとするものであることからする困難さと新たな研究アプローチの創出を必要とするものである。「マイノリティ研究」の困難さと「使命」を再確認させてくれる研究会であった。

 


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