Kansai Univ
 
「国家形成とマイノリティ」研究班第4回研究会

目的と意義

意義と独創性

構成員

総括

市民権

国家形成

国際関係

2012年度

2011年度

2010年度

2009年度

2008年度

紀要

ニュースレター

中間報告書

『差異と共同』

最終報告書

 

 

 

ニュースレター

紀要

 

「国家形成とマイノリティ」研究班第4回研究会
「メディアが表象する国民の構成と戦争の構成」

日時:  2009年6月18日、10時40分~12時10分
場所:  以文館4階第2会議室
報告者: クレア・チュレン=ソーランダー(オタワ大学教授)
司会:  大津留(北川)智恵子 (関西大学法学部教授、マイノリティ研究センター研究員)

社会の持つジェンダー観が日常にも増して如実に現れるのが戦争という場面である。その戦争において、本来戦わない性とされてきた女性兵士は何を意味するのだろうか。また、その女性兵士の表象を利用して、国家は何を果たそうとするのだろうか。今回の研究会では、カナダ史上初めて戦闘において犠牲となった女性兵士であるニコラ・ゴダールを事例とし、カナダ国家が外交政策遂行のためにジェンダー観を利用しただけでなく、カナダ国民がその表象の中に自らのアイデンティティを見出そうとした点など、国家、国民、戦争、ジェンダーの相互関係をめぐり議論が展開された。
チュレン=ソーランダー教授は、アメリカに隣接し、経済的には不可分な状態にあるカナダが、それ故に外交においてアメリカとの差異化を求めてきた文脈から説き起こした。カナダが国際政治の中で初めて独自性を示したのが平和維持活動であり、それにより二度ノーベル平和賞を獲得している。戦うアメリカに対して平和を守るカナダという言説が、カナダのアイデンティティでもあったとされる。そのカナダが、国内的議論もなく開始したアフガニスタンでの平和維持活動において次々と兵士を犠牲にし、平和維持と称される派兵そのものへの疑問が持たれる中、ゴダールが初めての女性兵士犠牲者となった。派兵に反対していた家族は、彼女が戦場から家族に綴ったメイルを公刊することで、公の場での議論が始まることを期待した。が、その結果生まれたのは、人道支援に理解のある女性兵士の犠牲というジェンダー観を利用して、アフガニスタン派兵の意味を構成し、それによってカナダのアイデンティティを構成しようとする試みであった。
異なることを異なるままに受け入れるカナダ型の多文化主義と、「一つのカナダ」としてのアイデンティティの必要性とが対峙する中で、ジェンダーのみでなく、多様化するカナダのエスニシティも、国民としてのアイデンティティ構成に利用されうる。国家が主導権を握り、メディアがそれを補完する環境の中で、いかに人びとの公の議論による対抗的なアイデンティティ構成が可能なのかについて、考えさせられる事例であった。
センター員4名を含む教員7名、学生8名の参加を得て、時間いっぱいまで熱心に質疑応答が行われた。

大津留(北川)智恵子

 


Copyrighted 2008, Center for Minority Studies, Kansai University
関西大学マイノリティ研究センター
〒564-8680大阪府吹田市山手町3-3-35 総合研究室棟2階
電話06-6368-1111 FAX 06-6368-1463