インド・パキスタンの判例集を収蔵しました!
このたび、マイノリティ研究センターの蔵書として、インドの代表的な判例集であるThe All India Reporter (通称AIR)と、パキスタンの代表的な判例集であるThe All Pakistan Legal Decisions(通称PLD)とが配架された。これは、南アジア法研究の進展について非常に重要な一歩である。
近現代のインド法およびパキスタン法の主要な部分は、植民地宗主国であったイギリスの法体系から継受されたものである。判例が主要な位置を占めるイギリス法の影響が強いのであるから、両国法を研究するに際しては、判例の検討を欠かすことはできない。
今日、その判例を探すには、大きく分けて二つの方法がある。第一に、AIRなどの判例集にあたること、第二に、インターネットでの検索を行うことである。後者については、コンピュータの前でさえあれば判例を探すことができるというメリットがあるが、目当ての判例を探し出すのには時として慣れが必要である。その点、判例集に直接当たることができれば、より容易に目指す判例を見つけ出すことが可能である。
しかし、日本でこれらの判例集を元に研究するに当たって、大きな問題があった。それは、所蔵している図書館が少ないということである。AIR、PLDのいずれも、長期間継続的に受け入れている図書館はアジア経済研究所図書館を除いてはごく少数であり、とくに関西ではほとんどなかった。今回の両判例集の配架によって、南アジア法研究を行う者にとっては、飛躍的に便利さが高まったといえる。
今回、インドについては、1921年から2003年までのAIRが配架された。植民地統治期においてはボンベイやカルカッタなどの高裁判例のほか、ラングーン(現ヤンゴン)やラーホールの判例も収められている。独立後は、最高裁や各州高裁の判例のほか、判例評釈などの論考が毎年平均8巻ほどの大部に所収されている。最高裁だけではなく、高裁の判例にあたることができるのは、AIRならではであり、現代インド法研究に資するところ大である。
PLDについては1980年から2001年までのものが配架された。1977年のハック将軍によるクーデタ以降、パキスタン政治では大統領の権限強化をはじめとする憲法問題とこれに関わる訴訟とが大きな位置を占めていた。そうした問題を見るためにも、PLDの配架は意義あるものである。また、PLDには、連邦シャリーア裁判所の判例も収められており、イスラーム研究にも有用であろう。
今後、これらの判例集を元にしての、さらなる南アジア法研究の発展が期待される。
浅野 宜之(大阪大谷大学人間社会学部准教授