Kansai Univ
 

第5回マイノリティ・セミナー

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ニュースレター

紀要

 

第五回マイノリティセミナー

「インドネシアの多様な法制度と法文化-法人類学と多元的法体制-」


日時)2月26日(木)13:00~17:00  

場所)関西大学児島惟謙館1階 第1会議室

報告者) Sulistyowati Irianto (インドネシア大学法学部准教授・ジェンダー研究所長)  

通訳)森正美(京都文教大学准教授)

コメント)高野さやか(東京大学大学院博士後期課程)
石田慎一郎(大阪大学大学院・助教)


司会)角田猛之(関西大学法学部教授・アジア法文化研究班主幹)

 

2009年2月26日(13:00-17:30)に法学研究所第1会議室にて、インドネシア大学法学部のスリストワティ・イリアント教授(Sulistyowati Irianto:法学部・政治社会学部教授、法人類学科長、前・インドネシア大学ジェンダー研究所長)をお招きして、「インドネシアの多様な法制度と法文化―法人類学と多元的法体制」に関するセミナーが開催された(法学研究所第38回現代法セミナー、マイノリティ研究センター共催)。


インドネシアは、スマトラ、ジャワ、ボルネオなどの主要な島とニューギニアの諸島と付近の多数の島々からなる、アジアでは中国、インドに次ぐ東南アジア最大の国である。また、2億3800万人(2005年)の人口と、多数の民族、言語、宗教(イスラム教88.6%、キリスト教8.9%(プロテスタント5.8%、カトリック3.1%)、ヒンドゥ-教1.7%、仏教0.6%、儒教0.1%、その他0.1%)を抱える典型的な多民族、多文化国家でもある。さらにまた、1949年に独立するまで約350年間にわたってオランダの植民地(1942年から45年までは日本の軍政下)であったがゆえに、さまざまな西洋流の統治制度や法も持ち込まれている。そしてこのような国家の成り立ち、歴史的背景から、インドネシアは典型的な多元的法体制を有する国でもある。すなわち法制度に関しては、国家法としてはオランダ法の影響を受けつつも、原住民の固有の慣習たる「アダット」(adat:規範的な慣習、伝統)が、イスラム法たる「シャリーア」(sharia)とならんで法としての効力を有しているのである。


セミナーでは、まずは、フィリピンを主たるフィールドとする法人類学者の森正美氏(京都文教大学人間学部文化人類学科・准教授)のきわめて明快な通訳を含めて約1時間半にわたり、イリアント教授がインドネシアの大学における法人類学と多元的法体制に関する報告をおこなった。すなわち、インドネシアの大学における1960年代以降の法人類学(法学部では法哲学とならんで必須科目である)と多元的法体制の研究と教育の現状と展開を鳥瞰しつつ、法人類学者としては第2世代たるイリアント教授などを中心とする、近年のあらたな法人類学の展開、とりわけ、NGOなどの実践的活動と手を携えての法改革に連結しうる実践的意義をも有する法人類学の展開の試みについて、教授の見解がのべられた。


そしてイリアント教授の主報告に続いて、まずは、インドネシアの法人類学が専門の高野さやか氏(東京大学大学院博士後期課程)から、インドネシアに内在する視座から、アダット概念の整理と批判的検討に関するコメント、ついで、アフリカとりわけケニアを主たるフィールドとする社会人類学者の石田慎一郎氏(大阪大学大学院人間科学研究科・助教)からは、インドネシアに対する外在的視座から、それぞれ“The Concept of Adat and Adat Revivalism in Post-Suharto Indonesia” と“Living Law or Zombie Law? The Place of Customary Law in Asian and African Legal Pluralism”という英語による極めて興味深いコメント(の後に日本語にてコメント概要紹介)がなされた。


2コメントに引き続く約1時間にわたる質疑応答においては、法哲学者の竹下賢教授からアダットが有するポジとネガ、とりわけネガの側面、例えば女性差別を容認し、助長するアダットの存在について、また同様に、インドネシアを専門とする人類学者の金子正徳氏(国立民族学博物館・機関研究員)からも、法の下の平等という視座からして容認しがたい社会的格差がアダットによって温存されるのではないか、との質問がなされた。さらに、比較法学者の西賢教授からは、インドネシア大学におけるオランダ法と中国法の教育、研究について、またアジア法学の安田信之教授からは、訴訟の過程で裁判官が調停を促進するような制度はあるのか、またどの裁判所でアダットが用いられる傾向があるのか、という質問がなされた。


紙幅と時間の関係上、主報告とコメント、質疑応答のなかみにはほとんど言及できなかった。それらについては、2009年前半期に刊行予定の『ノモス』(法学研究所機関誌)にて、報告ペーパーとコメントペーパーの英文と日本語訳の全文および質疑応答の概要について掲載予定であるので、そちらを参照していただきたい。
法学部教授・法学研究所アジア法文化研究班主幹 角田猛之

 

THE STUDIES OF LEGAL ANTHROPOLOGY AND LEGAL PLURALISM IN INDONESIA

Sulistyowati Irianto

Abstract: The primary aim of this paper is to describe the progress of legal anthropological and legal pluralism studies in Indonesia in the last 40 years. This paper presents some notes on historical background. How legal anthropology, and socio-legal studies at large, have been developed in academic circumstances. It will be divided into three phases, that is (a) the period of 1960’s until the end of 1980, and (b) the mid of 1980 to the mid of 1990. It portrays how legal anthropology has been taught in various universities in Indonesia, and the problems constrained deal with and (c) the mid of 1990 to present, which depicts the recent progress. Last of all, it is important to describe how the school of thought of legal pluralism more or less influenced the effort of legal reform in Indonesia through practical works done by NGO’s. Many activities dealing with legal reform have been proceeded by NGOs In the last ten years. Some NGOs activists who have given legal aid for adat communities, have felt the needs for providing a deeper and broader explanation of legal pluralism to give better legal advice to adat communities. Taking these circumstances into account, the cooperation between academic circumstances and NGO’s could be observed.

 


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