Kansai Univ
 
第8回マイノリティセミナー

目的と意義

意義と独創性

構成員

総括

市民権

国家形成

国際関係

2012年度

2011年度

2010年度

2009年度

2008年度

紀要

ニュースレター

中間報告書

『差異と共同』

最終報告書

 

 

 

ニュースレター

紀要

 

第八回マイノリティ・セミナー

「ドイツのマイノリティ」

日 時)2010年2月24日(水)
14:30~17:00  
場所)関西大学児島惟謙館 1階会議室

問題提起とコメント) 浜本隆志 (関西大学文学部教授)

研究発表Ⅰ)村上嘉希(関西大学非常勤講師)
「ジプシー」の虚像と実像

研究発表Ⅱ)須摩肇(関西大学非常勤講師)
「同性愛者」の世界

司会)孝忠延夫(関西大学政策創造学部教授・マイノリティ研究センター長)

                          
2010年2月24日の14時40分より、関西大学児島惟謙館1階第1会議室において、ドイツのマイノリティのセミナーが開催された。報告者は文学部関係の私的なマイノリティ研究会メンバーのうちの3人であったが、本セミナーでは、このグループが今年の3月に、『ドイツのマイノリティ』(明石書店)として出版予定の単行本の1部を紹介するというかたちをとった。

冒頭に文学部教授の浜本隆志がドイツのマイノリティの総論的説明と問題提起をおこない、続いて本学非常勤講師の村上嘉希が「『ジプシー』の虚像と実像」について、同じく本学非常勤講師の須摩肇が「『同性愛者』の世界」について研究報告をした。

1 浜本報告の要旨
マジョリティとマイノリティとの関係については、「主導文化」の担い手をマジョリティと規定した。「主導文化」とは多様な概念を含むが、政治的には与党(支配政党)、宗教的には多数を占めるキリスト教、民族的には国家のなかの多数派(ドイツ人)、さらに日常生活では慣習、習俗、一般的な世論、常識などが想起される。他方、マイノリティはその対極にある少数文化の継承者と規定できよう。


浜本隆志氏

両者の関係にはたえず力のメカニズムが作動し、多くの場合、マジョリティの論理が文化を主導する。それは極端な場合、マジョリティ側の権力による弾圧や抑圧となり(ナチス)、民主化された現代では多数決の論理となっている。またメディア、インターネットによるバッシングという現象もひき起こされる。したがって強者と弱者という力関係をともなう両者のあいだには、たえず差別、抑圧の問題が介在する。

われわれはマイノリティ研究を民族的視点と社会的視点からおこなった。まず「民族」という概念は、英語でいうnationとethnicity(ギリシャ語源ethnos)の両面を包括するが、ドイツでは図式化すれば、マジョリティ側は「民族」をNationと規定し、19世紀のフィヒテやヤーンなどのナショナリストは、ドイツ統一の理念のなかにこれを位置づけた。

さらにナチス・ヒトラーは、人種論とナショナリズムを結合させ、強者の論理を主張した。しかしわれわれのいう民族的視点というのは、その対極にある言語的・文化的エスニックグループ、あるいはエスニシティである。この視点から、今回出版する単行本ではユダヤ人、「ジプシー」、「移民」をクローズアップしたが、ここでは「ジプシー」を取り上げる。

次に社会的なマジョリティにも、もろもろのカテゴリーがあるのはいうまでもない。われわれはそのなかで、ドイツの反体制的な作家や評論家、精神病患者、「同性愛者」を研究した。ここでは時間的制約のため「同性愛者」を取り上げることにした。

2 村上の研究報告「『ジプシー』の虚像と実像」の要旨
「ジプシー」は今日にいたるまで、両極端なふたつのイメージで捉えられてきた。ひとつは自然人、さすらい人、といったロマンティックなイメージである。そしてもうひとつはスリ、物乞い、といったネガティブなイメージである。「ジプシー」がこのように見られてきたのは、マジョリティ側の誤解と偏見によるものである。「ジプシー」はヨーロッパの人々に理解されず、長きにわたり疎外され迫害されてきた。


村上嘉希氏

「ジプシー」の実像を把握することはきわめて難しい。近年、彼らのほとんどは放浪していない。彼らは居住している地域の文化の影響を深く受け、混血も繰り返されてきたので、その特徴は世界各地のグループによって多種多様である。「ジプシー」には青い目や金髪の人々もいて、誰が「ジプシー」なのか簡単に判断することができない。今のところ「ジプシー」とはマジョリティの中で暮らす独自の文化を持った多種多様なマイノリティ・グループであり、「ジプシー」と呼ばれ、偏見に曝され、迫害されてきた人々、と仮の定義をするしかない。

なおナチス時代に50万人以上の「ジプシー」が虐殺された事実については、一般的にあまり知られていない。彼らの過酷を極めた歴史を学ぶために、もっと議論されるべき問題である。

3 須摩の研究報告「『同性愛者』の世界」の要旨                        
プロイセン刑法143条は、後には帝国刑法175条として同性愛を規制してきた。これに抵抗を企てたウルリヒスや「ホモセクシャル」という語を造ったケルトベニーは初期の活動家だった。医学界では「犯罪」ではなく、治療すべき「病気」として同性愛は見なされるようになった。また、法の及ばないイタリア・カプリ島へ赴く同性愛者もいた。クルップ財閥のフリードリヒは島では人望を集めたが、同性愛だという噂が広まり、自殺に追い込まれた。


須摩肇

その後ようやく同性愛者擁護団体が設立される時代になり、ヒルシュフェルトは「科学的人道主義委員会」を、ブラントは「主体者連盟」を組織し、法撤廃を目標にして多岐にわたる活動をおこなった。ユダヤ人同様、ナチスの同性愛者への蛮行は猖獗を極め、175条は強化された。彼らは収容所へ送致され、ピンクの三角形マークを付けられ、強制労働などに苦しんだ。ナチス時代には同性愛が原因で5万人が有罪判決を受けた。戦後もこの法律は1994年まで効力を発揮し、同性愛者を苦しめ続けた。現在AGG(一般平等待遇法)という法律が差別を禁止しているが、同性愛者の問題を議論し続けることこそ肝要であろう。

4 今後の課題
討論においては、「ジプシー」の概念規定の問題、「同性愛者」とドイツの社会的・法的問題、旧西ドイツと旧東ドイツの「同性愛」に対する取り組みの相違の問題などが活発に議論された。

マイノリティの問題は、単にドイツのみならず、日本でも避けて通ることはできない課題である。近年、日本に住む外国人は増加の一途をたどり、220万人に達している。またマイノリティとしての社会的弱者(外国人のみならず性同一性障害者、身体的障害者、婚外子)などが相変わらず差別を受けている。かれらは絶対的多数(マジョリティ)のなかで、いかに共生していくか、という問題を提起している。今回のセミナーが、以上の問題とその対応を考えるきっかけになれば幸甚である。

浜本隆志(関西大学文学部教授)

 


Copyrighted 2008, Center for Minority Studies, Kansai University
関西大学マイノリティ研究センター
〒564-8680大阪府吹田市山手町3-3-35 総合研究室棟2階
電話06-6368-1111 FAX 06-6368-1463