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第3回マイノリティ・セミナー

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ニュースレター

紀要

 

第3回マイノリティ・セミナー 

「国民国家形成とマイノリティ」

「国際問題としてのマイノリティ-民族自決の果てに」

報告者)吉川元(上智大学外国語学部教授)

「マイノリティ/ self-determinationと国際法-吉川先生へのコメントとして」
報告者)山田哲也(南山大学総合政策学部教授)

司会 柄谷利恵子(関西大学政策創造学部教授、マイノリティ研究センター研究員)

2009年1月10日午後15時より、関西大学児島惟謙館一階の会議室で、第3回マイノリティ・セミナーが開催された。今回は、国際政治学がご専門の吉川元氏(上智大学外国語学部教授)が「国際問題としてのマイノリティ-民族自決の果てに」という題で報告された。その後、吉川氏の報告に対して、山田哲也氏(南山大学創造政策学部教授)が国際法の専門家という立場からコメントを行った。


吉川氏の報告では、本来は国内問題であるマイノリティ問題が国際問題化する国際政治的背景を考察するという立場から出発し、20世紀において人種マイノリティ及び民族マイノリティが国際問題となっていった過程が解き明かされていく。その際、第1次世界大戦後に民族マイノリティ問題が国際問題となり、第2次世界大戦後には民族マイノリティ問題が封印される一方で、新たに人種主義が国際問題となる。その後、人種マイノリティ問題は1960年代に解決の兆しを見せるが、冷戦後には民族マイノリティ問題が再び国際問題となっていった。このように国際問題化するマイノリティ問題の中身は変化しており、それに対する国際社会の対応も変化している。加えて、人種主義と戦い、植民地の解放や人民の自決を唱えた国々において、逆説的に、民族マイノリティや政治異端者が抑圧され、人民の安全が組織的に脅かされていったという、マイノリティの安全と国際政治システムの安全の緊張関係が、国際安全保障論の視点から分析された。国際法学、国際政治史など広範囲に及ぶ先行研究を踏まえた綿密な分析を通して、マイノリティ問題の国際化およびその国際保護の動向が、主権国家、領域国家、国民国家といった属性を持つ「国家」を基盤として形成されている、現代国際システムの基本的秩序の根本を揺るがす可能性をはらむものであると指摘された。

山田氏は、吉川氏の報告が国際問題と国内秩序の強い結びつきの影響でマイノリティ問題の表出形態や国際社会の対応が変化する過程を歴史的に分析していったのに対して、国際法がご専門という立場から、実定国際法におけるマイノリティと自決(self-determination)の取り扱いの2点に焦点を絞って歴史的に概観された。具体的には、戦間期、第2次大戦後、そして冷戦後の3つの時期に分類し、戦間期においては帝国の不完全解体、第2次大戦後は国家(間)の秩序の強化、冷戦後は国家(間)秩序維持と権利保護の妥協が、上記の2点に大きな影響を与えていたことが議論される。さらに最後には、吉川氏の報告と同じく、国際政治システムの行方について言及することで討論を締めくくられた。その際、弱い国のガバナンス(統治)能力とマイノリティ保護、国際社会の役割に触れられた上で、国際政治システムの分裂の可能性について指摘された。

国際政治学と国際法という異なる専門分野の視点からの議論を通じて、国際問題としてのマイノリティ問題を考える際の重要な鍵概念としての「民族自決」の重要性が明らかにされた。さらに両報告者がそろって、国際政治システムとマイノリティの安全の両立の困難さを指摘したことは、私たちの抱えるマイノリティ問題の重要性及び困難さが確認されたといえる。

(柄谷利恵子)

 


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