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教員が語る専門領域の魅力 vol.6

玄 幸子 教授

現代中国語(普通話)を深く知るために歴史の河を遡ろう

玄 幸子 教授

Profile

専門分野は中国語学(中国語口語史研究)。文献の世界に現れにくい口語の魅力にとりつかれて、音韻、語彙、語法にわたり研究しています。対象とするのは敦煌文書、漢訳仏典、高麗および李朝期に使用された中国語教科書などの周辺資料です。

口語の魅力


莫高窟・敦煌

 中国語は文言と口語という完全な二重言語の歴史を有しています。そしてその長い歴史の中で常に主役であり続けたのは、揺るがない規範を持つ文言であり、口語が記録されることはほとんどありませんでした。20世紀初頭に敦煌莫高窟で発見された大量の文書は、正に当時の社会、文化の実相ををそのまま記録する資料として世界中のあらゆる分野の学者たちの注目を集めました。言語についても同様、当時の口語の様相を伝えるこの世紀の大発見により中国語口語研究は飛躍的な進歩を遂げることとなります。口語に対する認識、研究は敦煌出土資料よりはじまったと言っても過言ではありません。ここからさらに掘り下げて、漢訳仏典や様々な分野の資料の中に口語の軌跡を見出すことの楽しさは、氷山の一角からその下に広がる膨大な言語の諸相を発掘する喜びでもあり、なにものにも代えがたいと思われます。

歴史研究の応用


利瑪竇のお墓・北京


道観・香港

 外国語学部での担当科目は中国語総合などを担当しています。外国語を習得する場合、最初のハードルは母語にない新たな発音を習得する事です。中国語の場合、まずは声調、単韻母ならばe、ü、声母でもっとも厄介なのはzh,ch,sh,rというそり舌音など。教室で最初にこれらの説明をし、実践練習を始めると、エエッ?という第2声の大合唱が聞こえてきそうですね。ところで日本語はあいまい音が多く母音・子音の数も少ないように言われていますが、実は少し学ぶと意外にそうでもないことに気づく筈です。例えば、日本語の「か、き、く、け、こ」の「キ」の音、「は、ひ、ふ、へ、ほ」の「ヒ」の音、これらは現代中国語にはありません。事象だけ述べれば、「ああ、無いのね」で終わってしまうところですが、さあ、ここで、一考……「何故ないの?」この答えを見つけようとすれば、現代語だけの知識では答えは見つけられません。実は古い中国語には「キ」「ヒ」の音がありました。ところが、17−19世紀初めに「口蓋化」という音韻変化が起こりすべて「チ」「シ」音に代わってしまったのです。現代中国語の音韻体系を歴史の流れの中で改めて捉えなおしてみると、g.k.hの声母の後には開口(φ介音)・合口(u介音)、j.q.xの声母の後には斉歯(i介音)・撮口(ü介音)というように互いに補い合う関係にあることにすぐに気づく筈です。そうすれば、juを「ジュ」と読むといった信じられないミスをすることがなくなります。これは1例にすぎません。歴史的な視点で現代中国語を捉えなおすことは音韻面のみならず、現代中国語の語彙、語法を深く理解する大きなポイントとなります。授業では、時に意識してこのような歴史的視点を盛り込みながら皆さんの理解を深く掘り下げていく工夫をしています。

学生のみなさんへのメッセージ


魯迅記念館・北京

 現代中国語(普通話)がどのような過程を経て形成されてきたのか、その歴史をたどることは即ち中国の民族・文化・思想の歴史をたどることでもあります。知の桃源郷に自由自在に遊ぶことを目指して、さあ一緒に、歴史の河を遡りましょう。