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教員が語る専門領域の魅力 vol.5

山本 英一 教授

言語表現を深く探求して、人間の心の働きを考える

英語学 山本 英一 教授

Profile

意味論・語用論を中心に、英語表現とその意味の伝達メカニズム解明が研究のテーマ。英文法との関連で、ESP(English for Specific Purposes) 教育や英語教育全般にも関心がある。

専門領域の魅力

 英語を身につけていくうちに、さまざまな表現に出会い、実際の場面の中で使うようになります。お互いに非常に似ている表現はいつでも自由に差し替えて使えるように思ってしまいがちですが、必ずしもそうとは言えないのです。日本語でも、たとえば「開く(ひらく)」と「開ける(あける)」は同義語とされますが、「門戸を開く」とは言えても、「門戸を開ける」と言うと変ですね。どう説明したらいいのでしょうか。同じことは、英語の表現にも当てはまります。英語に関するそんな違いをしっかり考えて、大きな枠組みのなかで言語現象が説明できるようにすること。それが英語学の仕事なのです。
 厄介なことに母語の場合、自然な言い方は分かっていても、表現の違いを人に説明することは難しいと感じます。私たちは外国語として英語に接していますから、説明はもっと難しいと思われるかも知れません。しかし、外国語を勉強していると、あまりにも当たり前なので、母語では気づかなかった言語現象に、ふと気がつくことがあるものです。これは外から言語を眺める者の利点だと言えます。言葉の研究には、そのような「気づき」が重要で、個々の現象について説明できないのは母語話者も同じだとすれば、むしろ異言語からの「気づき」のある私たちが積極的に英語(外国語)の表現を考えることは、けっして無意味でないことになります。
 言語を研究する究極的な目標は、言葉を通して人間の心のメカニズムを解明し、人間とはいったい何なのかを考えることにあります。言語の研究には、大きく言って、音声に関わる側面(音声学)、文法に関わる面(統語論)、意味に関わる面(意味論・語用論)の3つがあります。私は、この意味に関わる面を中心に研究を進めています。たとえば、皆が上機嫌でハイキングをしているとしましょう。突然大雨が降ってきたとき、誰かが “What a lovely day today!” と言えば、皮肉を言っているのだなと察しがつきますね。どうして、この発言が文字通りの意味に解釈されないで、皮肉だと分かるのか、うまく説明ができるでしょうか? 言葉を聞いて解釈する際に、実は私たちは、百科全書的知識を含めて、いろいろな情報を総動員し、さらにさまざまな推論を介して解釈を行っているのです。おそらく数値には還元できない、言葉の解釈に必要な複雑なプロセスを解明するのも英語学の仕事であり、その魅力と言えます。

学生に向けて一言

 私は長年、英語を専門にしない学生たちに英語を教えてきました。彼らには、英語にまず興味をもたせ、勉強法をアドバイスし、言葉の楽しさを説いてきました。そのとき、英検やTOEFLの成績は大きな目標になります。一方、英語が専門になると、スコアは究極の目標ではなくなります。幅広い教養を身につけ、英語のプロとしてのセンスを磨かねばなりません。視野を広げ、よく頭を使って言葉を読み解く「地頭力」を鍛えてください。