3.「自然」からみた
社会安全学

より早期に地震警報を発令
できるシステムを模索する

研究テーマ
稍(やや)深発地震のための
オンサイト地震警報基準の検討

林能成ゼミ 山村 紀香さん
(西宮市立西宮東高等学校出身)

山村 紀香さん

このテーマに興味を持った理由

 日本は世界有数の地震大国であり、地震の観測網がきわめて発達しています。現在、気象庁が中心となって提供する緊急地震速報は一般レベルにまで普及していますが、その一方で誤報や情報提供の遅さ、とりわけ震源の近くでは間に合わないという点に問題を残しています。私は、この弱点を補うための「オンサイト地震警報システム」を研究テーマに選びました。
 私が生後4カ月のときに阪神・淡路大震災が起こりました。被災経験を家族や親せき、地域の方々からたくさん聞いて育つなかで、地震による被害を減らすために学びたいと思い、社会安全学部へ進学。そして地震学を専門とする林先生のゼミで研究に取り組んでいます。

研究の流れ

STEP1 先行研究に関する論文を調べる
STEP1

 オンサイト地震警報システムは、緊急地震速報の弱点である震源に近い場所で特に有効です。このシステムの研究開発は台湾が先行しているため、台湾の研究者が英語で書いた論文に目を通しました。しかし台湾は震源の浅い地震が多く、それを想定した研究が大半です。一方、日本では2001年の芸予地震、2009年の駿河湾地震など、震源がやや深いところで発生した地震も起こっています。この稍(やや)深発地震のためのオンサイト地震警報に関する研究事例がないに等しいため、私自身が取り組もうと考えました。

STEP2 プログラミング
STEP2

 具体的に研究を進めるにあたっては、実際の地震の観測データを分析するプログラムづくりからスタートしました。「MATLAB」という数値解析ソフトを用いて、波形や分布の可視化を行い分析するプログラムを作成。ゼミに入った3年次当初、プログラミングの知識はほぼありませんでしたが、昼休みなどを使って先生や先輩に教えていただき、必要な知識を身につけました。

STEP3 データの分析
STEP3

 インターネット上で公開されている、過去の地震の観測データをもとに、データを分析します。今回は震央からの距離が30km未満の観測点の上下動の波形から、地震の規模を示す値(τc)と観測点との距離を示す値(Pd)を算出し、マグニチュードや規模が同じ程度の4つの浅発地震と稍深発地震を比較しました。
 稍深発地震では警報を出すほどの強い揺れに見舞われるのに、Pdの値が小さく、警報を出す必要がないと判定される場合がありました。これは「見逃し」の危険性があることを意味します。つまり、稍深発地震の発生が想定される日本などにおいては、被害を過小評価しないために、Pdに変わる評価指標が必要ではないか、と考察しています。

STEP4 分析結果を学会で発表
STEP4

 1カ月後に開催される地震学会で、先生との連名でポスター発表をする予定です。学部生の参加者はあまり多くなく、貴重な体験ができるチャンスだと考えています。先日ようやく予稿(実際の原稿のダイジェスト版)を仕上げました。発表までにより良い研究結果が出せるように、日々研究に取り組んでいます。

次にめざしたいStep!  来春からは、京都大学の大学院に進学することが決まりました。これからも地震に関する研究をさらに進めていく予定です。
 地震の研究は、地球そのものが研究対象になります。だから未知の領域がまだまだ残されているのですが、地震研究を前に進める一人として、より精度と速報性の高い計測方法の確立に貢献したいと思います。