1.「社会」からみた
社会安全学

生活に必要な「保険」に
ついて知識を深める

研究テーマ
環境汚染賠償責任保険

桑名謹三ゼミ 中地 萌絵さん
(私立光泉高等学校出身)

中地 萌絵さん

このテーマに興味を持った理由

 2年次に保険に関する授業を受けたことがきっかけで、人生に必要な保険についてもっと知りたいと思い、桑名先生のゼミに入りました。
 保険は事故が発生した際の損失をカバーするものと捉えられがちですが、保険に加入することが事故防止の意識向上につながるとも考えられています。同様に、企業が加入する「環境汚染賠償責任保険」にも環境汚染の抑止効果が期待されており、近年の環境汚染問題を考えるうえで有効に活用できないかと思い、このテーマを研究しました。

研究の流れ

STEP1 環境汚染の国内事例を調査
STEP1

 日本の4大公害病のひとつである「水俣病」の事例を文献やインターネットで調べました。水俣病は、1956年に熊本県水俣市で化学工業の会社が窒素廃液を海に流出し、その海で汚染された魚を食べた人が有機水銀中毒になった事件です。当時の日本には、環境汚染賠償責任保険は存在していなかったため、裁判は長期化し、その末に企業と国は多額の賠償金を支払うことになりました。
 その後、1992年に環境汚染賠償責任保険が開発・発売され、少しずつ環境リスクに対する関心が高まってきました。

STEP2 保険普及の実態を調査
STEP2

 環境汚染賠償責任保険が実際に日本でどれくらい普及しているのかを調べるため、日本国内の保険会社の調査を行いました。しかし、保険会社でも環境汚染賠償責任保険を扱っていないことが多く、保険の開発・発売から20年以上たった今でもほとんど普及していない現状が見えてきました。

STEP3 海外の事例を調べる
STEP3

 近年、PM2.5による環境汚染が深刻化する中国の事例をインターネットで調査。中国では環境汚染のリスクが高い企業に対し、環境汚染賠償責任保険加入の強制化が試験的に行われていることを知りました。
 中国企業の情報は公開されているものが少なく、また、ホームページも中国語のため、翻訳にも時間がかかり、情報収集にとても苦労しました。インターネットでの情報収集に加え、環境汚染について研究している桑名先生の講義でも知識を深め、海外事例の研究を進めました。

STEP4 保険加入のメリットとデメリットを考察  メリットは、事故が発生した際でも保険会社から出される賠償金が確保されていることで、企業の資産変動を軽減でき、環境汚染の早期浄化を図ることが可能なことです。また、保険会社にとっては、契約企業が増えることで環境汚染に対するリスクをデータとして蓄積できるため、保険料や保険金の定量化がしやすくなり、保険商品の販売を強めることも可能になると考えられます。
 一方、デメリットは、加入に時間と多大な費用がかかることです。企業の環境汚染のリスクを判断するために、保険会社は調査を行いますが、その調査費200~300万円は企業が負担することになっており、長い期間と費用が必要となります。その結果、保険に加入できなかった場合は、企業のイメージダウンにつながる可能性もあるのです。
 こうした調査のなかで、日本で環境汚染賠償責任保険が普及しない要因が見えてきました。今後はこれらの要因を改善していく方法を考えてみたいと思っています。

次にめざしたいStep!  今回の研究では、企業の方や保険会社の方に直接お話を伺うことができなかったので、今後の研究では、さまざまな方に実際にお話を伺い、「現場の声」を生かした調査・分析を続けていきたいと考えています。