VIVA!学び場 ひとつの授業が人生を変えた マーケティングとテクノロジーで切り拓く観光の未来 商学部
佐野 楓 教授 

 観光客の動きをビッグデータで分析し、観光地の混雑緩和や地域活性化につなげる「観光マーケティング」。2026年度、関西大学商学部に着任した佐野楓教授は観光マーケティングのエキスパートです。近年は、AIが観光地選びに与える影響など、テクノロジーと観光の新たな関係についても研究を進めています。
 中国・北京で生まれ育ち、母のルーツである日本と中国を行き来する環境で育った佐野教授。研究者としての歩みの背景には、国境を越えた出会いや学びがあります。今回は、生い立ちから現在の取り組み、学生への思いまで幅広くお話をうかがいました。

AI時代の観光を読み解く、観光マーケティングの最前線

—現在はどのような研究をされていますか?

 観光マーケティングのなかでも、持続可能な観光開発という研究テーマに取り組んでいます。例えば、GPSのビッグデータを活用して観光客の動き(モビリティパターン)を分析することで、京都や大阪で課題となっている観光地の混雑緩和につなげられると考えています。
 テクノロジーの進化と観光は密接に関わっており、なかでも近年注目しているのがAIです。これまで旅行先を探す際はウェブサイトで検索するのが一般的でしたが、最近ではAIにお勧めの観光ルートや旅行プランを提案してもらう人が増えています。こうした変化が観光にどのような影響を与えるのかを、新たな研究対象として取り組んでいます。

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—海外でも研究に取り組んでいらっしゃると伺いました

 最近では、和歌山大学在任中に、ウズベキスタンのシルクロード国際大学の受託研究に携わりました。日本人観光客がウズベキスタンにどのようなイメージを持っているのか、どんな観光をしたいと考えているのかなどを調査しました。
 観光マーケティングは社会課題に向き合う研究なので、コンサルティングに近い役割を担うこともあります。

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日本人観光客の誘致に向けたウズベキスタン観光の潜在市場調査報告書

観光マーケティングとの出会い

—研究のきっかけを教えてください。

 もともとの専門はサービス・マーケティングで、観光学と出会ったのは2015年に和歌山大学に着任してからです。
 旅行が大好きだったので観光自体は身近なものだったのですが、研究対象としては未知の分野でした。
 観光学の切り口は、地域再生やジェンダー論など実にさまざまです。先輩や同僚には研究熱心な方が多く、彼らに触発されるように私も観光学に深く関心を持つようになりました。
 その後、それまで培ってきたマーケティングの知識を生かして観光マーケティングの領域に踏み出しました。

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佐野教授が学生に薦める一冊

—マーケティングとの出会いについて教えてください

 私の人生を振り返ると、人とのご縁に恵まれてきたと感じます。和歌山大学で観光マーケティングに出会ったこともそうですが、新しい進路はいつも誰かとの出会いから開かれてきました。
 そもそも私がマーケティングに興味を持ったのも、偶然の出来事がきっかけでした。
 大学時代は中国語教師を目指し、北京の首都師範大学で中国語を学んでいました。ある日、北京大学に通う友人に誘われて、たまたまマーケティングの授業に参加したのです。本来は授業後に遊びに行く予定で、講義を受けるつもりはありませんでした。

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佐野教授が学生に薦める一冊

—どんな授業だったのでしょうか?

 驚くほど面白いものでした。例えば、CMを見た大人と子どもの行動の違いなど、身近な現象を新しい視点で読み解く内容に強く惹かれました。
 それ以来、首都師範大学に通いながら北京大学の授業も履修するようになりました。あの時、あの先生に出会っていなければ、今の私はなかったと思います。

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北京大学での授業資料

北京と日本、ふたつの文化が育んだ私らしさ

—子ども時代はどのように過ごされましたか?

 私は中国の北京で生まれ育ちましたが、日本にルーツを持つ母が大阪で働いていたこともあり、日本と中国を行き来して過ごしていました。
 そうした経験から、子どものころから日本の文化が大好きで、セーラー服を着て日本の学校に通うことが夢でした。実際、中学校から母と一緒に神戸に引っ越すことを計画していましたが、1995年に阪神・淡路大震災が発生し、その夢は実現しませんでした。
 私たち家族は中国にいたことで直接的な被害は受けませんでしたが、日本のことはいつも心にあり、大学院進学のタイミングで神戸大学へ進みました。

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—日本と中国を行き来した経験は、今の価値観に影響を与えましたか?

 今でこそ、そうした家庭環境を貴重な体験だったと受け止めていますが、子どもの頃は周囲との違いに戸惑うこともありました。両親がそろって暮らす友人たちを羨ましく感じたり、日本人らしく生きていくべきか、中国人らしく生きていくべきなのか、葛藤したりした時期もありました。
 そんな私に母は、「誰かの真似をして生きる必要はないから、あなたらしく生きなさい」と言葉を掛けてくれました。私自身を肯定してくれたこの言葉は、今でも私の支えになっています。

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ひとつの授業が人生を変えることもある

—授業ではどのようなことを大切にされていますか?

 関西大学では、観光産業論という授業を受け持っています。学生たちはとても元気で勉強熱心。私の質問に対しても、「間違ってもいいから自分の考えを発言しよう!」という姿勢が印象的です。好奇心を持って授業に取り組む学生に応えられるよう、一生懸命に授業をしています。

260701_kt_vivasano08.jpg 研究室に並ぶ『地球の歩き方』(発行:株式会社地球の歩き方)は教材として使用

—印象に残っている学生とのエピソードを教えてください

 私にマーケティングの面白さを教えてくれた北京大学のホウ先生とは、研究者となってから学会で再会しました。授業の記憶や先生からいただいた資料はずっと私の宝物でしたから、12年ぶりに感謝を伝えられてうれしかったです。先生も大変喜んでくださいました。
 一方で、私自身も教員として同じような経験をしています。かつて授業を担当した学生の一人が、観光学に魅力を感じてこの分野へ進んだのです。その学生も友人に誘われて、偶然私の授業を受けたことがきっかけだったと聞き、かつての自分を重ねました。 授業は、新しい学問と学生の出会いの場です。
 小さなきっかけが、その後の進路や人生を変えることもあります。 だからこそ、一つひとつの授業を大切にしながら、学生のみなさんにとって新しい世界と出会える場をつくっていきたいと思っています。

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佐野教授のお気に入り

関大メロンパン

 学食めぐりが趣味で、神戸大学在学中に関西のほとんどの大学の食堂を巡りました。
 関西大学のおすすめは「関大メロンパン」。中にメロンクリームとホイップクリームが入っていてボリューム感もあり、とても美味しいです。長く愛されている名物パンだそうです。

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凜風館の食堂・カフェ(関西大学生活協同組合)で販売 ※価格は取材当時

各国・各地方のお土産

 研究室の本棚は、すぐに必要な本が探せるよう整理整頓しています。
 そこには本だけでなく、学生や仲間からいただいたお土産を飾っていて、いつも見ては癒されています。研究で訪れたウズベキスタンのほか、中国やガボンの学生がくれた現地のお土産、卒業生や同僚からの寄せ書きなど、どれも大切な思い出が詰まっています。

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商学部
佐野 楓 教授

●プロフィール
同志社大学商学部(助教)、和歌山大学観光学部(准教授・教授)を経て、2026年4月より現職。観光マーケティングや行動経済学を基盤に、持続可能な観光発展やデスティネーションにおける価値共創に関する研究に取り組む。現在は「擬人化コミュニケーションによる責任ある観光行動の促進」などのテーマにも注力。教育面では、第8回 関空発「学生と旅行会社でつくる」海外旅行企画においてグランプリを受賞。また、Sカレ(Student Innovation College)のビジネスコンテストでは、2021年度「SDGs旅行企画」(株式会社日本旅行)、2023年度「未来が描けるノートづくり」(大阪書籍印刷株式会社)、2024年度「Z世代のためのサラサーティ」(小林製薬株式会社)の各テーマで優勝し、指導学生の企画案が実際に商品化された。趣味は研究、旅行と学食巡り。