言語・音・意味の関係を探究
「mal(マル)とmil(ミル)、どちらが大きいテーブルの名前にふさわしいと思いますか?」と、熊谷准教授が学生たちに問いかけます。多くの学生が「マル」と答えるこの質問。実は日本語でも英語でも、世界中の多くの言語で同じ傾向が見られるのだとか。
熊谷准教授の担当する「英米文学英語学専修ゼミⅣ」(以下、熊谷ゼミ)では、このような言語の持つ「音と意味の関係」を探る音象徴(おんしょうちょう)を中心に、言語の音が持つ「規則性」について学びます。



















































VIVA!学び場
ことばの "かわいさ" は音で決まる? 発音に隠されたルールやイメージとの関係を探る「言語学」の世界
文学部 総合人文学科
ことばには、私たちが普段意識していない "音のルール" が潜んでいます。
熊谷准教授は、ことばの規則性を解き明かす言語学(音声学・音韻論)の研究者です。ゼミでは、学生自身が問いを立て、調査や統計分析に励んでいます。
身近なことばを見つめ直すことで、世界の捉え方が変わる――そんな興味深い学問の扉を叩いてみましょう。
「mal(マル)とmil(ミル)、どちらが大きいテーブルの名前にふさわしいと思いますか?」と、熊谷准教授が学生たちに問いかけます。多くの学生が「マル」と答えるこの質問。実は日本語でも英語でも、世界中の多くの言語で同じ傾向が見られるのだとか。
熊谷准教授の担当する「英米文学英語学専修ゼミⅣ」(以下、熊谷ゼミ)では、このような言語の持つ「音と意味の関係」を探る音象徴(おんしょうちょう)を中心に、言語の音が持つ「規則性」について学びます。
熊谷准教授の著書『「かわいい」言語学 音とイメージから解明するネーミングのしくみ』(大修館書店)では、人が「かわいい」と感じる名前に潜む音の秘密を明らかにしています。
たとえば、パ行の音はなぜ「かわいい」と感じるのか。また、キャラクターの名前を分析したり、実験したりすることで、音と「かわいい」イメージのつながりについて、言語学の視点から解き明かします。このように言語の音を通して人間の感覚や心理に迫るのが、熊谷ゼミの研究領域です。
熊谷ゼミには、音の規則性や音象徴などに興味を持った約15人の学生が集まっています。3年次生の秋から本格的に始まり、まずは卒業論文の前段階となるゼミ論に挑戦します。
「卒論をフルマラソンとするなら、ゼミ論はハーフマラソン。いきなり大仕事に臨むのではなく、テーマの選び方、仮説の立て方など、研究の進め方を身につけてもらいます」と熊谷准教授。小さなテーマでも自ら仮説を立てて検証し、文章にまとめるプロセスを通じて研究の楽しさと奥深さを実感していきます。学生同士が成果を共有し、互いにコメントし合う姿も熊谷ゼミの特徴です。
研究は、調査と実験の両輪で進められます。たとえば「名前に使われる音」をテーマにする場合、なぜ男の子には阻害音(日本語でいえば、カ行・サ行・タ行など)、女の子には共鳴音(ナ行・マ行・ラ行など)が多いかについて、実在するデータを収集し、検証します。
さらに実在しない名前(無意味語と呼ばれる)を作り、「どちらが女の子らしいと感じるか」などを答えてもらう実験も行い、統計的な傾向を確認します。データ分析にはプログラミングの「R」を使用するため、その使い方から学べるのも熊谷ゼミの魅力です。
「私から学生に研究テーマを与えることはありません。自分で問いを立て、自分で確かめるのが研究の基本です。最初は迷っても構いません。考え抜くことが何よりの力になります」と熊谷准教授。自ら学び、自ら探究する姿勢こそが、熊谷ゼミの核をなしています。
熊谷准教授の研究は、社会のさまざまな場面でも活かされています。新卒ダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox」を運営する株式会社i-plugとの協働で、就活生の気持ちが前向きになる広告として、口角が上がる広告「みにみにぴにぴに」を展開しました。
この謎の呪文は、すべてイ段が含まれています。母音の"i"は口を横に広げて発音するので、笑顔に近い表情を作り、気持ちを明るくさせます。「気持ちが明るくなるから笑顔になる」というよりは、「笑顔を作ると、気持ちを明るくする」という逆転の発想です。言語学の知見が、心を動かすデザインとして形になりました。
こうした研究は、商品名や広告コピーなどのネーミング戦略にも応用されています。音声学と社会との接点に魅力を感じ、卒業後もゼミで培った知見や分析力を活かしたいと語る学生も少なくありません。
「音や言葉は、情報ではなく"体験"として人に届く。そこに言語学の力があるのです」と熊谷准教授は語ります。
研究では結果が思うように出ないこともありますが、「失敗も結果のひとつ」と熊谷准教授は学生たちを励まします。
「大学で学ぶのは、"答えを覚えること"ではなく"問いを見つける力"です。自分の疑問を出発点に、音や言葉を通して世界の見え方を発見していける。そんな探究の面白さを味わってほしいですね」
言語を音から見つめ直す熊谷ゼミ。無意識に使っていた言語の奥には、人間の知覚と感性、文化の豊かな世界が広がっています。
文学部総合人文学科には世界史や哲学論理学など16の専修※があり、入学後に興味に合わせて選択できることが魅力です。 私は1年生の時に受けた熊谷先生の授業をきっかけに、音声学に関心を持ちました。言葉の裏にあるルールや規則に気づける瞬間がとても面白いです。
ゼミでは学生同士が自由に意見を交わしながら研究に取り組みます。最初はその自由さに戸惑いましたが、勇気を出して周囲に意見を求めるようになってから学問に対する理解が深まり、研究も前進しました。今は卒論に向けて、仮説を立てながら研究を進めています。
※ 文学部総合人文学科の組織体制は、2026年度に現在の16専修から12専修へと再編されます。
熊谷先生の授業で音声学に出会い、「普段何気なく聞いている音にも深い意味がある」と気づきました。その学びがきっかけでスペインへ留学し、現地ではスペイン語の音声学を学びました。将来は、日本とスペインのあいだでコミュニケーションの架け橋として、音声技術の研究開発や国際的な共同事業に携わりたいと考えています。
音声学は発音を学ぶだけでなく、人間の思考や感情、コミュニケーションに迫る学問です。言語学の知見は今後、AIの言語能力やコミュニケーション技術の発展にも大きく貢献すると感じています。