特  集 vol. 521 関大まちづくり+

スクロール

「関大前通り」と呼ばれる、
阪急電鉄関大前駅から正門へ続く道は、
学生や教職員をはじめ、関西大学に関わる
人々にとって馴染み深い風景です。
同時にこの通りは、周辺で暮らす地域の方々の
日常とも密接につながっています。
さらに、大規模災害の発生時には、
大学と地域が互いに助け合う
重要な拠点にもなります。
学びや研究の場であり、青春の舞台であり、
地域の暮らしと隣り合う場所――。
関西大学とその周辺エリアが
どのような関わりを築いてきたのか。
その積み重ねに、いま改めて目を向けてみます。

※本文中の情報は取材当時のものです。

 2025年11月15日、関大前通りで新たな地域イベント「関大前まつり」が開催されました。
 グルメブースや子ども向けの縁日など、地域の人々が楽しめる企画が並ぶ一方で、このイベントにはもう一つの目的がありました。それは、地域防災や地域福祉を考える実証の場であること。当日は、地域の見守り活動に役立つ「みまもりあいアプリ」の試験運用も行われました。
 運営には多くの関大生も参加。商店会、自治会、行政、大学、地域住民など、さまざまな立場の人々が力を合わせ、当日は約5000人が訪れるにぎわいとなりました。

 関大前通りの一部では通行規制も実施。一般道路を公益に資するイベントで一時的に使うためには、市役所からの占用許可、警察からの使用許可が必要となりますが、こうした申請や協議の手続きにも学生が携わりました。
 この「関大前まつり」は、突然生まれたものではありません。大学と地域が長い年月をかけて築いてきた関係の中で形づくられたものです。地域が抱える「防災・福祉」と「活性化」という課題、そして関西大学との関わりについて、その歩みを振り返ってみましょう。

01学生の街としてにぎわった関大前

 関大前通りは、古くから学生の街として親しまれてきました。
 前関西大学体育OB・OG会会長の佐藤さんは、学生時代の関大前の様子をこう振り返ります。

佐藤さん 「1960年代、関大前通りには食堂がたくさん並んでいて、体育会系の学生たちがよく通っていました。今は大手チェーンの店舗も増えましたが、当時は個人のお店が多くて、安くおなかいっぱい食べられるのが学生にはありがたかったですね」

 当時も関大前通りは学生でにぎわう街でした。一方で、防災の観点から大学と地域が協力して取り組む活動は、まだほとんど見られなかったといいます。

 大学と地域が防災という共通の課題を意識するようになるのは、阪神・淡路大震災をきっかけとする社会の変化の中でした。

02防災をきっかけに始まった大学と地域の連携

 1995年の阪神・淡路大震災を契機に、防災への意識が社会全体で高まりました。そして1998年、関西大学千里山キャンパスは吹田市から災害時の一時避難地として指定されます。
 一時避難地とは、地震や火災などが発生した際、建物倒壊や延焼の危険から命を守るため一時的に避難する場所のことです。避難生活を送る場所ではなく、避難者の集合場所としての機能も果たし、必要に応じて広域避難場所へ移動する前の中継地点となります。
 災害時には、キャンパスの屋内外施設を大学関係者および地域住民の避難場所として使用する予定であり、誘導を想定した体制も整えています。また、千里山中央グラウンドは、災害時の臨時ヘリポートとして機能します。

 こうした収容力と設備面から、関西大学は、地域防災の拠点としての役割を担うことになりました。

03防災訓練から広がった交流

 2010年には、大学全体で取り組む防災啓発行事「関大防災Day」が始まりました。この行事には学生や教職員だけでなく、地域住民も参加しています。避難訓練のほか、学内で備蓄している食品を用いた炊き出し訓練や備蓄倉庫の見学ツアーなども行われ、大学と地域が協力して防災について学ぶ機会となっています。

 第1回の防災Dayに参加した千二(せんに)地区連合自治会長の雑部(ぞうべ)さんは、当時をこう振り返ります。

「当時、私は自治会の一員として炊き出し訓練に参加しました。チーム対抗戦で行うなどゲームの要素もあり、楽しいイベントでした。炊き出しは初めての経験でしたが、大学と地域が連携することの必要性を実感しました」

 雑部さんが地域防災への意識をさらに強めるきっかけとなったのが、2013年8月の豪雨でした。関大前通りが冠水し、場所によっては膝上まで水が達するほどの被害が発生します。

「このままではいけない」。その思いから、雑部さんは千二地区連合自治会長となり、地域の安全のための活動を進めていきました。

 こうした防災活動と並行して、大学と地域の交流を広げる取り組みも生まれていきました。

210  2015年、関西大学130周年記念事業の一環として、地域の子どもたちを対象としたスポーツ教室を運営するNPO法人「関西大学カイザーズクラブ」が発足しました。
 カイザーズクラブはスポーツ教室だけでなく、地域との交流を目的としたイベントにも取り組んでいます。その一つが、NPO法人ママふぁん関西と共同で開催している「まちFUNまつり」です。

 「まちFUNまつり」は主に未就学児や小学生を対象とし、スポーツ教室の無料体験をはじめ、協力企業の体験型ワークショップや理科実験教室など、多様な経験を提供するイベントで、コロナ禍の期間を除いて毎年開催されてきました。

大学の施設を地域に開き、交流の場を生み出す取り組みとして、年々参加者も増えています。こうした活動を通じて、大学と地域の関係ははより一層密接になっていきました。

04まちづくりへと発展する連携

 2016年には、防災とまちづくりを視野に入れた「レジリエンスキャンパス構想」が始動します。これは、南海トラフ巨大地震などの大規模災害時に、吹田市との連携のもと、大学の持つ施設や資源を活用し、地域住民を受け入れる防災拠点として機能する環境整備を進める取り組みです。
 同年には、吹田市・大阪府茨木土木事務所・阪急電鉄株式会社・関西大学の4者による「関西大学周辺まちづくりに関する包括連携協定」が締結されました。

 さらに、大学と周辺地域が定期的に話し合う場として「関西大学周辺まちづくり勉強会」が発足します。
当時、関西大学管財局職員だった松浦さんはこう振り返ります。

「それまでは、大学周辺地域の方々と継続的に話し合う場がありませんでした。それが、関大前ラボラトリというコミュニティスペースを開放して勉強会の場にすることで、大学と地域が定期的に意見交換できるようになりました」

 当時、関大前商店会は一時休眠状態にありましたが、2018年、大学もメンバーとなり復活をサポート。アミューズメント施設「フタバボウル関大前店」を運営するパレ・フタバ株式会社の社長である深井さんが、関大前商店会会長を務めることになりました。

「大学と地域が連携して、防災や街のにぎわいづくりを進められるなら素晴らしいと思い、会長を引き受けました。フタバボウルは昔から関大生が利用してくれている場所。商店会の役割を改めて感じています」

 会長として商店会を率いるにあたり、深井さんは個人的に親交のあった、環境都市工学部建築学科の木下光教授にも相談されたそうです。木下教授の研究分野は都市デザイン。オブザーバーという形で、「関西大学周辺まちづくり勉強会」に木下教授と木下研究室の学生も参加するようになりました。

こうして、「関西大学周辺まちづくり勉強会」では、4者による意見交換と、環境美化活動としてごみ拾いを定期的に行うようになりました。

「ごみ拾いには、自治会、商店会、関西大学職員のメンバーが中心となって参加しています。さらに体育会サッカー部の学生さんも毎回参加してくださっていて、大学と地域が一緒に街をきれいにする活動になっています」

こうした日常的な交流が、大学と地域の信頼関係を少しずつ育んできました。

05コロナ禍で生まれた新たな関係

 2020年、新型コロナウイルス感染症の流行によって、地域と大学の多くの活動は一時休止を余儀なくされます。「関大防災Day」や「まちFUNまつり」も開催できなくなりました。しかし、その期間にも思わぬ形で交流が生まれます。関西大学総務局の藤田さんはこう語ります。

「学生が自宅学習となり、食堂も一時休止しました。その頃、商店街の飲食店が職員向けに弁当のデリバリーを始めてくださったんです。出勤している職員にはとてもありがたい取り組みでした」

 この出来事をきっかけに、大学職員と商店街の人々が顔見知りになり、関係はさらに深まっていきました。

06そして『関大前まつり』へ

 2024年、関大前エリアでは防災面で大きな進展がありました。
 花壇踏切道の拡幅です。
 この整備は、「関西大学周辺まちづくりに関する包括連携協定」を結んでいる吹田市、大阪府茨木土木事務所、阪急電鉄、関西大学の4者による協議の中で検討されてきた取り組みの一つです。
 これまで、災害時に一時避難地および災害時臨時ヘリポートに指定されている関西大学へのアクセス道路の強化が課題となっていました。花壇踏切道は幅が狭く、大型車両が通行する際には切り返しが必要になるなど、平常時における歩行者の安全確保のほか、防災上の課題が指摘されていた場所でした。
 拡幅工事の経緯について、吹田市土木部の大野さんは次のように説明します。

「花壇踏切道は幅員が狭く、大型車両の通行が難しい状況でした。災害時にスムーズに物資輸送や救援活動を行うためには、出入口を分けた"ワンウェイルート"の確保が重要です。踏切や橋の拡幅によって、地域の防災力の向上につながったと考えています」

 この整備によって、関西大学周辺の防災インフラは一歩前進しました。同年12月には、花壇踏切と葦葉橋の完成を記念した式典が開催されるとともに、大型車両の通行に関する実証実験も行われました。この実証実験では、木下研究室の津田さんが中心となり撮影・編集を行いました。あわせて、地域交流イベント「まちFUNまつり」も実施され、多くの地域住民が関西大学を訪れました。

 まちづくり勉強会に都市設計研究室(木下研究室)の学生とともに参加している木下教授は、次のように話します。

「花壇踏切道の拡幅によって、防災のハード面の課題の解消は一歩前進しました。一方で、地域防災にはソフト面での連携も重要です。地域の方々と大学、行政が顔を合わせ、協力関係を築いていくことで、さらにできることが広がっていくはずです」

 こうした考えのもと、関西大学周辺まちづくり勉強会では、以前から関大前通りでのイベント開催の可能性について議論が重ねられてきました。
その具体的な形となったのが、地域と大学が協力して企画した新たなイベント「関大前まつり」です。
木下研究室の学生が、関大前通りの店舗や民家を一軒ずつ訪ね、企画趣旨を丁寧に説明し、賛同を集めました。

「関大前まつりは、単なるお祭りイベントではありません。2024年度の大型車両通行実証実験に引き続く、地域防災力の向上と地域活性化、地域福祉など、それぞれの立場で恩恵を受けられるよう企画していることを丁寧に説明するよう心がけました」

「私たち木下研究室生だけでなく、社会学部の吉岡ゼミや、関大万博部※、体育会クラブの学生など、多くの関大生が関大まつりに参加しました。学生にとって、貴重な経験を得られる場にもなっていると感じます」
※関大万博部は、2025年度末で解散。

 イベントの開催にあたっては、関大前通りの一部を車両通行止めにする計画が立てられました。しかし、一般道路をイベントで使用するためには、市の道路使用許可に加え、警察や消防などへの届け出が必要になります。また、福祉や教育など複数の行政部署との調整も必要でした。
 その調整役として尽力したのが、吹田市都市計画部の清水さんをはじめとする市職員の方々でした。

「関大前エリアでは、これまでも大学と地域が連携してさまざまな活動をされていることを、市としてもよく知っていました。大学、商店会、自治会がうまく連携している地域なので、市としてもサポートしやすいと感じています。木下研究室の学生さんが市の各部署や警察等への申請手続きにも積極的に動いてくださっていましたね」

こうして、商店会、自治会、地域住民、行政、大学、そして学生が力を合わせ、「関大前まつり」は実現しました。

 当日は約5000人が来場し、関大前通りは大きなにぎわいに包まれました。
 イベントを通して、新たな防災の視点も見えてきました。例えば、電柱が倒れた場合の通行ルートや、袋小路になっている住宅地から避難所までの避難経路などです。
 木下教授は、これまでの歩みを次のように振り返ります。

「大学と地域が連携する中で、関大前の街の風景は少しずつ変わってきました。今はその土壌が整ってきた段階だと思います。何も知らない人が『なんだか前より良くなった』と感じるようになるまでには、もう少し時間がかかるかもしれません。でも、これまでに蒔いてきた種が、これから花開いていくはずです。卒業生の皆さんにも、久しぶりに関大前を訪れて、近年の変化を感じてほしいですね」

 地域と大学がともに育ててきた関大前の街。その歩みは、これからも続いていきます。

07関大前まつりの結果

関大前通り:
市民と学生がコラボするSDGs実践の場 経済学部
宇都宮 浄人 教授

 関大前通り。関西大学の正門から続くこの商店街は、関大生にとっても、また、そこで生活する市民にとっても、特別な通りであることは間違いありません。
 その関大前通りが、この10年余りの間に進化を遂げています。「関大防災Day」から始まり、地域の子どもたちを対象としたスポーツ教室「関西大学カイザーズクラブ」も発足。「関西大学周辺まちづくり勉強会」では地域と大学の定期的な話し合いの場が持たれ、そこからごみ拾い活動も展開されました。
 こうした地道な活動が実を結んだのが、2025年11月の「関大前まつり」です。「まつりという名の実証実験」と銘打ったとおり、単なるイベントにとどまらず、防災や福祉に意識を向け、地域の安全・安心を皆で考える絶好の機会となったのです。学生たちも加わって地域や関係機関と丁寧な対話を重ねた結果、この日、関大前通りの一部で車両通行止めが実現しました。
 関大前通りにおける市民と学生の活動は、まさに持続可能な地域づくりの実践です。持続可能性の追求といえばSDGsをイメージしやすいものの、それが理念として語られるにとどまることもあります。そうした中、防災への取り組みやごみ拾い活動は、SDGsの理念を日常の行動として具体化する実践といえるでしょう。さらに、車の通行を止めたウォーカブルな関大前通りは、環境面で持続可能性を体現する一例です。
 関大前通りが、SDGs実践の場として進化を続けています。そして、この舞台でさらにどんな発展があるのか、まだまだ期待は尽きません。