2.「人間」からみた
社会安全学

「駅」を安全学の視点から
デザインする

研究テーマ
駅改札通過時における
滞留防止策についての研究
— JR大阪駅御堂筋口を例に

吉田 裕ゼミ 原田 鴻成さん
(山口県立豊浦高等学校出身)

原田 鴻成さん

このテーマに興味を持った理由

 吉田ゼミでは、運輸分野(自動車・鉄道・航空・船舶)における事故防止と安全確保に関する研究を行っています。これまでのゼミにJR西日本の方がゲストスピーカーとしてお越しになり、現場での安全管理や課題対応について直接お話を伺う機会がありました。こうした交流を通じて、理論と実社会のつながりを意識しながら研究を進めてきました。
 私は普段からJR大阪駅御堂筋口を頻繁に利用していますが、一部の改札通路では、人が集中して滞留する様子をよく目にしていました。自動改札機は「スムーズな通過」を可能にする仕組みだと考えていましたが、実際には混雑が発生し、ストレスを感じる場面が多くあります。一方で、まったく使われていない改札通路も存在しており、その「混雑の偏り」を解消することで改札の利点をより活かせるのではないかと考え、この研究を始めました。

研究の流れ

STEP1 大阪駅御堂筋口での仮説立案
STEP1

 まず、特定の改札通路で混雑が起こる要因を探るため、人が目的地に向かう際の「最短経路志向」に着目しました。JR大阪駅の複数の出入り口や、駅全体のホームの位置関係を整理し、最短距離で移動できる改札通路を分析したところ、御堂筋南改札が、複数の目的地に対して、最短ルート上に多く位置することが分かりました。

STEP2 駅員へのヒアリング調査
STEP2

 現場を最もよく知るJR大阪駅の方々に、御堂筋口の混雑状況についてお話を伺いました。その結果、御堂筋南改札は、他の改札通路に比べて約6倍の混雑が発生しており、行列が形成されやすい状況であることが分かりました。また、利用者に向けて混雑緩和に協力してほしい旨の案内や行列の解消を目的とした案内が十分に実施されていないものの、駅員対応が必要な利用者に向けての案内やIC専用改札である旨の案内はヒアリング調査時点で実施されていることが明らかになりました。

STEP3 現地調査
STEP3

 実際に現地で改札周辺の構造を調査したところ、御堂筋口は太い柱が多く視認性が悪いため、各出入り口から改札口が見えにくいことが分かりました。また、改札の位置を示す案内は吊り下げ看板のみで、利用者が直感的に通路を選びづらい構造になっています。ただし、改札口付近になるとフロアシートサインや音声案内、貼り紙、デジタルサイネージがあり、ヒアリング調査時の回答された内容の案内が実施されていました。

STEP4 問題点の考察
STEP4

 調査を通して分かったのは、御堂筋口では「視認性の悪さ」と「案内表示の不足」により、利用者が偏ってしまっているということです。利用者にどの改札を選ぶか委ねる形になっていますが、十分な情報が伝わっていない状態で判断を求めること自体が課題であると感じました。「スムーズな通過」という自動改札機の利点を最大限に活かすには、ソフト面での工夫が必要だと考えています。
 また、今回の研究でご協力いただいたJR大阪駅の方々へ、最終的な結果報告に伺う予定です。今回の研究で明らかになった結果と提案を伝えることが楽しみです。

次にめざしたいStep!  混雑している改札前では人の列が形成される傾向があります。そのため、列ができる前の位置に案内表示や誘導サインを設けることで、特定の通路に人が集中するのを防げるのではないかと考えています。今後は、列が形成される位置の特定と、効果的な案内の方法について、さらに調査を進めていきたいと思います。
 また、今回の研究を通して、駅という身近な空間にも多くの安全課題が潜んでいることを実感しました。「安全でスムーズな移動環境をつくる」という視点から、これからも人々の行動や空間設計の在り方を探究していきたいです。