2005年に開催された愛知万博(愛称: 「愛・地球博」)は当初の想定入場者数1500万をはるかに上回る2200万人余りを動員し、大成功をうたわれたにもかかわらず、地元愛知以外ではさほど盛り上がらず、「愛知だけ万博」とも揶揄されました。それでも会期中は多くの熱狂的なリピーターが足繁く通い詰め、公式キャラクターのモリゾーとキッコロが地元ではミッキーマウスをしのぐ人気をいまだに保っているともいわれます。
開催前には時代遅れのイベントとも言われ、成功が疑問視されていたのに、ここまでファンから熱烈な支持を受けたのはどういうことなのか。それを解き明かしてくれる議論はあまり多くありません。本書はそんな疑問に少しでも応えることができるように、万博に集ったさまざまな人びとの声を集めてつくりあげていったものです。
会期の全日程185日間すべてに通いつめ、「万博おばさん」としてたびたびメディアにも登場した山田外美代さんの特別寄稿をはじめ、一般公募から集まった万博の思い出コラム、共同研究をともにすすめてきた学生たちのエッセイ、巻頭のカラー口絵など、万博に何度も通った人にとっては記憶をかみしめることのできる本になっています。また、情報化が進み、ネットやケータイなどが一般市民に普及したなかで初めて開催された万博として、新たに見えてきた動きも取りあげているほか、今回の万博の特徴とされた市民参加の実態の一側面についても論じています。その意味では、21世紀を迎えたIT時代の巨大メディア・イベントのゆくえについて考察するうえで、本書は重要な手がかりにもなるはずです。
「まえがき」と「あとがき」にも記したとおり、この本を送り出すきっかけとなったのは、地元愛知の中京大学や愛知淑徳大学のほか、本学を含めた全国5大学の合同ゼミナール(インカレゼミ)を万博開催にあわせて実施したことでした。
企業の万博へのかかわり、パビリオンのテーマパーク性、環境問題への取り組み方、そして来場者たちは何を求めて集まったのか、等々、いくつかの部会に別れて数十名の学生が討議を重ね、それぞれの参加学生は開催中の万博会場を実際に訪れてリポートをまとめました。そのなかでも優れたリポートや、聞き取りをおこなったデータで、ユニークなもの、価値あるものと評価されたドキュメントがこの本の中におさめられています。
学生たちが万博の中に、何を見い出し、どのような観点からそれをまとめていったのか、そういう視点でそれぞれの章やコラムを拾い読みしていくのも興味深いことなのではないでしょうか。