社会調査の教育は、社会学に限定されません。多くの分野に広がっています。もともと海外では、政治学、経営学、文化人類学、統計学など幅広い学問で取り扱われていますので、これはあたりまえのことです。ですので、社会調査を理解したいと思う人であれば、どの学問領域を専攻する人にも、この本を手にとってほしいと思っています。なぜならこの本は、既存の学問領域の枠組みにしばられない内容になっているからです。
また、本書の内容は、筆者がこれまで培ってきた社会調査に関する実践経験と社会調査教育の経験に基づいて執筆されています。筆者の経験が特色をだすのに一役買っている一方で、一般社団法人社会調査協会が認定する社会調査士資格のA科目とB科目の両方のカリキュラムに対応させていますので、ある程度標準的な社会調査の学習内容で構成されています。
社会調査に関する良書は、これまでにも刊行されています。その中で本書を刊行する意義は、社会調査士科目の標準を目指しながらも他の類書にない特色を打ち出したことにあります。例えば、現在の世論調査報道で非常に利用されている電話調査や、市場調査で普及しているウェブ調査の両方について俯瞰した解説がなされている書物はまだ多くありません。これに対し、本書では、実際の手順を意識させながら、面接調査や郵送調査といった伝統的な調査手法と同時に、電話調査やウェブ調査といった比較的新しい調査手法の両方を実践的に理解できるように解説しています。難しく思われがちなサンプリングについても、図や表を活用し、数学が苦手な人でも理解できるような工夫に努めています。
世間では、アンケートと称して、質問文を用いた調査が数多く実施されています。しかし、質問文を作成して調査を適切に実施することは、簡単そうにみえて意外と難しく、気をつけるべきことがたくさんあります。
少し厳密な手順を踏まえて実施した社会調査を、お手軽そうなイメージの強いアンケートと区別して、調査票調査と呼ぶことがあります。本書では、この調査票調査の手順をかなり具体的に示しています。そのため、教科書としての利用だけでなく、調査の実務的な場面においても役に立つはずです。日本の社会調査のやり方は独自の深化の歴史があるのですが、海外の調査方法論との関係についてもかなり意識して書いています。国内の調査でも海外の調査でも、社会調査を最初に始める上で有用な一冊です。