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「学の実化」の実践─新しい年度を迎えるにあたって─

関西大学学長
前田 裕

大学や教育機関にとっては、新しい年度を迎えることは、新しい学生を迎え入れ、新たな学年暦が始まるという意味で大変重要な節目です。このような機会に、ご家族をはじめとする皆様方に、新年度を迎えるにあたってのご挨拶ができる機会をいただきましたことお礼申し上げます。
さて、137年の歴史を持つ関西大学は、昨年、大学昇格100年という佳節を迎え、様々な行事が、コロナ禍の影響を乗り越えて、盛会に行われました。関西大学教育後援会や関西大学校友会をはじめとする多くの皆様のご協力へのお礼と共に、101年目を迎えた関西大学の教育と研究、社会連携のあり方を確かなものにしなければならないという思いがあります。
また、昨年はじまった、ウクライナへのロシア軍の侵攻は、我々がいままで積み上げてきた世界秩序を破壊するもので到底容認できません。このような武力紛争が1年以上にもおよび続くことを誰が想像できたでしょう。関西大学でも、ウクライナ学生の学びを途絶えさせないという視点から、学生を受け入れています。その中でドニプロ工科大学との連携も始まりました。
このように翻弄される世界情勢の中で、少子化をはじめとする日本社会の直面する課題も深刻です。その中で、社会を先導する人材育成のための教育、社会に貢献できる研究、社会と共にある連携活動をどのように構築して行くのかが関西大学に問われています。特に、コロナ禍の困難を乗り越えてきた努力や経験をもとに、厳しい環境の中でも学びを続けることができる教育体制作りを着実に進めています。同時に、新たに入学された学生の皆さんも含めて、関西大学での学びが学生の皆さんの未来に着実につながっていないといけません。

COIL授業風景

多くの新入生の皆さんが高等学校を卒業して関西大学に入学されます。ここで、高等学校での学びと大学での学びには大きな違いがあります。それは、学生の皆さんが主体的に動くと言うことを原点に、大学での活動が準備されていることです。各学部での専門性の修得においても、自分でどの科目を選択するのかを決め、卒業までの単位取得の計画を立てます。そこには、高等学校と比べて、大きな自由度があります。卒業後の自分の将来を考えながら、授業選択をし、専門性を身につけていくことが望まれます。
同時に、準正課としての活動にも様々なプログラムが準備されています。インターンシップ、留学、ボランティア活動など、自分の学部の専門性に近いものから、語学力強化や異文化体験ができるプログラム、社会を見つめる機会を与えてくれるものなど様々です。これらの活動は参加を強制されるわけではありませんし、自分で調べないと気づかない場合もあります。しかし、参加することで、多くの貴重な体験、経験をすることができます。そして、そのような体験は自分の卒業後の将来を考える良い機会になります。どのようなことに興味を持ち、大学生活の中で、それを育てていくのか、大学生活の一つ一つの局面で、人生の方向を考えることができます。

ボランティア活動

関西大学には、この大学昇格時の101年前に提唱された「学の実化(がくのじつげ)」と言う学是、教学上の指導指針があります。「学理と実際との調和」、「国際的精神の涵養」、「外国語学習の必要」、「体育の奨励」の4つの柱からなり、「学理と実際との調和」は、私たちの学びや研究が実際の社会とつながっていなければならないことを示しています。
在学中に、学生の皆さんが社会での活動の一部を体験し、自分の将来や社会のあり方について考える機会を持つことは大切です。キャンパスを離れての体験を通して、いまの社会が抱える問題を目の当たりにし、その解決を自分の課題と捉える、あるいは、自分の夢や将来、方向性を見つけることにもつながるかも知れません。
ここで得られた様々な問題意識を大学でのいまの学びにつなげましょう。つまり、それを履修する科目の選択やゼミ、卒業論文の課題選択などに反映させたり、体験してきた視点から授業での内容を見直したりすることで、いま学んでいる授業内容の意義をより掘り下げて考えることができるのではないでしょうか。多様な体験が、関西大学での学びをより深い、リアリティーのあるものにしてくれます。知りたいことが増え、積極的に質問する自分になって行きます。一方で、このように理論や理屈を知ったことで、それからの行動が、より効果的な活動に変わっていくのではないでしょうか。
このような関西大学のキャンパスでの学びと、自分の活動や体験との相互作用、循環が、「学の実化」、指針としての「学理と実際との調和」の皆さんにとっての実践ではないでしょうか。
正課での学びと多様な体験、どちらも皆さんの将来にとって貴重なものです。これらの体験をするのか、しないのかは皆さんにかかっています。大学生活は、長いようで、あっという間に終わります。関西大学で何を学んだかということと同時に、「学の実化」を実践することで、皆さんご自身の未来がいま作られていくことを願います。

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