全国初、大学前商店街6か所にミニ図書館創設
関西大学の「新入生に贈る100冊」が3月29日、ミニ図書館に進化しました。周辺6か所に新設した〝貸出フリー〟の「関大前まちかど図書館」で、全国の大学で初めての試みです。昨年の新型コロナのワクチン職域接種の取り組みにおいて生まれた大学・保護者会・地元商店会の「絆の第2弾」。その小さな図書館新設から3日後の入学式当日、今度は「お返し」の横断幕が突然、商店街のビル屋上など5か所に現れました。「入学おめでとう」。まるで映画に出てくるような、打てば響く「まちかど図書館物語」を紹介します。
大学職員が横断幕に気付いたのは、入学式が始まった直後の4月1日午前10時半ごろ。千里山キャンパスの正門前の飲食店ビルの屋上に、見慣れない横断幕を見つけました。「祝 入学おめでとう」とあり、小さく「関大前商店会」とありました。ほかにもコンビニの駐車場、写真館の前、学生マンションの玄関、ボウリング場ビルの壁の4か所に掲げられていました。
第一幕 「あなたがお越しになる予感がありました」
この物語の第一幕は昨年6月21日にさかのぼります。この日、関西大学は医学部のない大学としては異例のスピードで新型コロナワクチンの接種を始めました。大阪医科薬科大学との約20年にわたる「医工連携事業」の積み重ねで、同大学の医師や看護師のバックアップが実現したからです。
国が各地の大学などに職域接種を呼びかけたのは6月1日。関西大学の芝井敬司理事長は前田裕学長と相談の上、すぐさま大阪医科薬科大学の佐野浩一学長に面会を求めました。学長室に入った芝井理事長に、佐野学長はこう切り出します。
「あなたがお越しになる予感がありました」。
この瞬間、両大学の「協働」で接種の準備が始まりました。
ほぼ同時に動いたのが、保護者会である関西大学教育後援会です。大学の意を汲み、会の資金で、接種した学生に500円のクーポン券を発行しました。学生への支援はもちろんのこと、コロナ禍で学生ら客の途絶えた地元商店街への「エール」を込めた企画でした。
商店会から「お返し横断幕」も5か所
第二幕「次の一手を考えて」
第2幕は昨年末です。ちょうど新年度の「新入生に贈る100冊」の選定が佳境に入った時期です。ワクチンがきっかけで出来た、大学・教育後援会・関大前商店会の3者の絆を生かして「次の一手を考えましょう。何か学生のためになる新事業を」という機運が生まれ、「100冊を商店街の空きスペースなどに展示して、お客に読んでもらえないか」との案が浮上。4年前から「100冊」企画を支えている教育後援会が、「ミニ図書館」をバックアップすることになり、商店街にある地元との交流施設「関大前ラボラトリ」など6か所に、50冊〜100冊を展示した書棚を設置することが決まりました。
第三幕「ボクも選書したいな」
この事業に「ボクも選書したいな」と「飛び込み」で参加したのが、吹田市の後藤圭二市長です。後藤市長も本が好きで、若者の活字離れを憂慮していた一人です。たまたま関大の新企画を知り「私も10冊選びます」と3月中旬、メモを関大側に出しました。後藤市長は「吹田は関大以外にも大阪大学などの大学が点在する文教都市。ほかの大学にも同様の取り組みを呼びかけたい」と話しています。
メモ
「新入生に贈る100冊」とは──
若者の活字離れが進み、全国大学生協連などの調査で、「一日の読書時間がゼロ」の大学生が50%近くにのぼります。そこで、関西大学では、4年前から学長(20冊)、紀伊國屋書店と丸善雄松堂(各40冊)が毎年選書し、それをパンフレットやホームページなどを通じて新入生に勧めています。全国の大学で初めての試みです。
「まちかど図書館」とは──
類似事例は大阪府池田市にある無人のミニ図書館です。公園など10数か所に設置されたコンクリート製の書棚に数百冊の書籍が並びます。鍵のない引き戸を開けて、誰でも中の本を取り出して読み、借り出すこともできます。手続きはありません。市民団体がボランティアで運営し、30年ほど続いています。