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関西大学 こんなお宝貴重な寄贈品に込められた「人の縁」とドラマ 会報編集部

15,000枚のSPレコード

関西大学には長年の間に元教職員や校友(OB・OG)、教育後援会関係者らから貴重な資料などが寄せられています。いずれも教育・研究や社会貢献に役立つものです。今号から数回にわたり、その一部を紹介します。
博物館は1994(平成6)年に開設されました。故末永雅雄名誉教授によって創設された考古学等資料室が前身で、考古学、歴史学、美術、工芸など多くの分野の貴重な資料を収集・収蔵しています。その中で案外知られていないのが音楽資料です。中でも約15,000枚にのぼるSPレコードのコレクションは、千里山キャンパスでコンサートを開くと会場が一杯になる程の人気です。

KUシンフォニーホールでのSPレコードコンサート

製薬会社会長との親交

考古学等資料室は前身が元毎日新聞社長、本山彦一氏の考古学コレクションを中心としたものでしたから、考古学や歴史学の資料が大半でした。そこへ異分野のSPレコードが持ち込まれたのは、人の縁です。
2006(平成18)年、クラシック音楽を通じて国際交流に力を入れていた上野隆三氏(故人)夫人の俊子さんから約1,500枚のレコード(内、SPレコード約1,300枚)が関大に寄贈されました。上野氏夫妻が関大の元理事長、森本靖一郎氏と親交があったからです。
上野氏は2代目社長として、社を成長させた辣腕の事業家でしたが、少年時代から音楽に親しんでいました。そこでSPレコードや楽器の収集を始めたのです。寄贈したレコードはロシアの作曲家、セルゲイ・ラフマニノフの作品など数々の名曲を収めた貴重なものです。

戦争と「スプリング・ソナタ」

上野氏の収集には、二つ違いの兄、隆祐さんへの特別な思いがあったようです。隆祐さんは音楽好きで隆三さんにバイオリンを教えたり、兄弟で二重奏を楽しんでいました。1943(昭和18)年、早稲田大学在学中に学徒動員で招集され、出陣の際、「スプリング・ソナタ」で知られるベートーベンのバイオリンソナタ第5番の楽譜をもっていきました。激戦のさなかでも五線譜を目で追い、指でなぞるひとときがあったそうです。硫黄島で戦死しましたが戦時中の兄の様子を人づてに知った隆三さんが、兄と一緒に集めていた思い出のレコードを関西大学に寄贈しました。
隆祐さんから出征に際して家業と両親の世話を託された隆三さんは、工学博士として自らの学位論文を発展させ、化学反応の解明とそれを応用した製品開発を成し遂げ、紫綬褒章を受章しました。事業の拡大伸張を図って経済基盤を固めた上で、クラシック音楽の普及と音楽家の支援に努め、その文化交流の功績を認められてオーストリア、ドイツからも勲章を授与されるに至りました。

他のレコードコレクション

その後、二つのSPレコードコレクションが寄贈されました。一つは大阪音楽大学から贈られた松本コレクション(約13,000枚)と、もう一つは伊吹コレクション(約500枚)です。前者は伊丹市在住の故 松本正美氏が収集したコレクションで、後者は元衆議院議長で元文部科学大臣の伊吹文明氏の父、良太郎氏が収集した主に西洋クラシックのコレクションです。

SPのコンサートも好評

こうしたコレクションを学生や市民の皆さんに聴いてもらおうと、博物館では「SPレコードコンサート」を開いてきました。最初は上野コレクションのお披露目も兼ねて2007(平成19)年5月に行われ、KUシンフォニーホールで隆三会長の遺志を継いで文化交流に努め、オーストリア名誉総領事を務めていた夫人、俊子さんがあいさつした後、360人が名曲に聞きほれました。

博物館でのSPレコードコンサート

蓄音機は元後援会長が寄贈

SPレコードのコンサートで使われる蓄音機は本後援会2017(平成29)年度会長、村岡基氏が寄贈しました。米国ビクター社のアウトサイドホーン蓄音機で、1901(明治34)年から30年近く販売されたロングセラー。2丁ゼンマイを内蔵し、朝顔形のホーンからは安定感のある演奏が楽しめる逸品です。

村岡氏から寄贈された蓄音機

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