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コロばない授業 会報編集部

新型コロナウイルスの影響が最も大きかったのは授業です。別表のように「授業は原則オンラインで」が4月上旬に打ち出され、ここから教員と学生による大変な作業が始まりました。
学習管理システム「関大LMS(KU Learning Management System)」をベースに、①Zoom等を利用したリアルタイム遠隔授業、②講義動画等の視聴により学ぶオンデマンド配信授業、③教材配付型授業 ─を組み合わせた試行錯誤の連続です。

たとえば哲学の授業では

文学部の三村尚彦教授(哲学)の講義「ことばと思考」をのぞいてみましょう。教授は授業を「質問回答編」と「本篇」の二つに分けて動画編集します。そしてYouTubeにあげ、授業を選択した学生だけがのぞけるシステムです。
哲学の中心にあるのは言語ですが、言語学とは異なる言語哲学という分野では、いったい何が論議されているのかを学ぶのが、この授業です。「質問回答編」は30分ほどで、前回までの授業を受けた学生の様々な疑問や感想にこたえるパートです。「本篇」は70分ほどで、これが本題。いずれも教授が板書したり、メモを画面に流したりして講義が進んでいきます。

オンライン授業を行う文学部三村教授

「富士山とフランスの国王」

例えば「ことばと思考」第6回目のテーマは「富士山とフランスの国王」。副題は「固有名の問題」とあり、教授は冒頭でこう話します。「今日の話は面白いんですけど、かなりややこしいんです」。学生はギクッとします。「そうか、やっぱり難しいんや」。すかさず教授はサッカーをもちだします。「オフサイドの説明なんかどうでもええから、とりあえず大まかにプレーを楽しもうや、という感じで進めます」。

ピンクのイルカとファッション哲学

若いころ10年ほど予備校で教えていた経験が生かされているようです。標準語と大阪弁をないまぜにした奇妙な口調で、華麗なパスのように豊富な話題を繰り出します。作家、沢木耕太郎がアマゾンで、乗っていたセスナ機が不時着しピンクのイルカと遭遇した話。哲学を研究する過程で「ファッション哲学」という分野に迷い込み、ついには学内でショーを企画し自ら出演したこと。学生でなくても十分に引き込まれる材料が盛り込まれています。

学内で開いたファッションショーに
自ら出演した三村教授

ウナギの寝床から

こうした語りや板書をウナギの寝床のような研究室で自撮りし、それを編集するわけですから、なかなか手間のかかる作業です。オンラインですから、学生の生の反応もわかりにくい。微妙な修正が効かないのです。同じ授業で同じ洒落を繰り返してしまい「先生、また言うてるわ」と思われても気づかない場合があるそうです。

問い合わせ1万件

とりわけ教える側も教わる側も、必要な機械やシステムに十分に慣れているとは言えず、質問が噴出しました。
学生からのリモート相談(メール・電話等)の件数は、4月から例年を大幅に上回りました。特にオンライン授業の実施にあたって、機械・システム関連の問合せが集中し、4─5月はおよそ1万件に及びました(教員からの相談を含む)。そこで、学事局は授業支援SA(スチューデント・アシスタント)を登用し、本来の目的でもある授業の質的向上や学生サービスの向上につなげられないか、と企画。オンラインにおける総合窓口を設置することで相談に関する導線を整理するとともに、学生の悩みや不安の解決を目指しました。

(別表)オンライン授業導入の経過一覧

日時 本学における対応 等
3月23日 4月6日〜4月18日の2週間を原則休講とする。
4月8日 政府による緊急事態宣言の発令(4月7日)を受け、「4月20日以降、当面は対面授業を実施せず、原則オンライン授業を実施すること」を発表。
4月上旬
から中旬
オンライン授業開始に先立ち、約3万人の学生が、自身の履修科目に応じた授業時間割に合わせて関大LMSにアクセスすることを想定し、通常運用時の5倍程度のログイン数に耐えられるよう、システム環境の増強対応を実施。
4月20日 オンライン授業の開始
開始早々、午前中から想定を超えるアクセス集中や、関大LMSに保存した動画を繰り返しダウンロードする等の負荷があり、レスポンスに遅延が発生。
4月下旬 4月21日午前にCPUコア数を増強したが、さらに前日を上回るログイン数があり、午後以降の動作スピードが低下。翌日4月22日、CPUとメモリのさらなる増強を行うとともに、動画をLMSに直接アップロードするのではなく、LMSとは別の外部システムから動画配信するなど、LMSの負荷を軽減する方法を利用者に周知。
4月30日 2020年度春学期期間中の授業は、原則オンラインで実施することを発表。
→伴い、成績評価方法(シラバス)および学年暦を一部変更(〜6月上旬にかけて随時対応)。科
5月18日 大阪府による大学休業要請解除(5月16日)を受け、5月20日〜31日まで、学部・研究科が認めた実験・実習等の科目に限り、十分な感染予防措置を講じた上で、対面型授業を実施することを可能とする方針を発表。
5月28日 6月1日以降の授業については、社会状況を踏まえながら段階的に緩和する方針を追加。
6月8日
〜現在
6月15日以降の授業方針を発表。オンライン授業をベースに、一部の科目(3密を回避できる等の諸条件を満たすもの)については、対面型授業を実施可能とする。

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