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【特集企画】就職座談会インターンシップを考える

国際インターンシップに参加して

本日はお忙しい中、座談会にお集まりくださり、誠にありがとうございます。
今回の座談会のテーマは「インターンシップを考える」です。インターンシップとは実際に企業や団体で就業体験を行い、「働く」ことを現実的に捉え、職業観や勤労観を醸成することを目的としたプログラムです。関西大学(キャリアセンター)では、主に学部3年次生・大学院修士1年次生を対象に国内外においてインターンシップを実施しています。そこで、学生のお二人からはインターンシップに参加された感想を、教育後援会会長、副会長には企業等の立場からのご意見、お考えなどをお聞かせいただきたいと考えております。また、キャリアセンターを代表して笹倉所長にもご同席いただいております。皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、まず国際インターンシップに参加された高岡さんと西井さんにおうかがいします。お二人はどちらで、どのような体験をされましたか?

私はニューヨークにある日系の新聞社でインターンシップに参加しました。驚いたのは初日から広告の営業に出されたことです。とにかく契約を取ってくるというのが私のミッションでした。英語力に自信があったわけではなく、人生で初めての営業体験でしたが、そこは持ち前の明るさと行動力でカバーしようと思い、毎日マンハッタンの街を走り回っていました。

壮絶な体験をしてきたのですね。それで契約は取れましたか?

それがまったく取れませんでした…。実は過去に契約を取ってきたインターンシップ生は一人もいなかったとのことで、恐らく失敗の経験を積ませることで、社会の厳しさを知ってもらいたいという意図があったのだと思います。そういった背景を知って、私は逆に闘争心に火がつき、「絶対に契約を取ってやる!」と必死に走り回っていました。過去のインターンシップ生が研修期間中に100件くらい訪問したところを私は500件訪問しました。それでもビジネスの世界は甘くなく、まったく契約が結べないまま時間だけが過ぎていきました。さすがに自信を失いそうになりましたが、冷静になぜ失敗するのか、相手は何を求めているのかということを自分なりに分析していました。その甲斐があったのか、499件は断られましたが、最終日に1件だけ契約を結んでいただくことができ、うれしさのあまりに思わず泣いてしまいました。この経験は後の就職活動でも大いに役立ったと思っています。

新興国でのインターンシップ

次に西井さんはどのような国際インターンシップを体験されたのか教えていただけますか?

はい。私が所属する外国語学部は全員が2年次に留学することになっていて、私は昨年オーストラリアに留学しました。そこでも外資系企業でインターンシップを経験し、世界中の人とつながる仕事に魅力を感じたので、3年次では国際インターンシップに参加することにしました。国際インターンシップ先に選んだのはインドです。これまでは海外というと先進国のイメージが強かったのですが、これからの時代はBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)などの新興国が著しい経済発展を遂げていくといわれています。そういった勢いのある国・地域で私の英語力が通じるのか、現地駐在の方はどのような働き方をしているのかなどを知りたいと思い、インドを選びました。研修先の企業は日本を代表する総合電機メーカーで、私はICチップ関連の部署でのインターンシップに参加したのですが、日本語でもわからない専門用語が飛び交っており、自信のあった英語でさえもインドなまりが強くて聞き取るのがやっと…。最初は「こんなはずでは…」と思い悩みながら過ごしていました。

西井さんも海外で苦しい経験をされたのですね。そこからどのように立ち直ったのですか?

最も救われたのは現地の方々の温かさです。専門知識のない私の質問にも皆さんが丁寧に答えてくださったので、自分から積極的にコミュニケーションを図るようにしていました。また、インドなまりの英語やビジネス英語での会話にも少しずつ順応できて、インターンシップの終盤に参加した電子部品展では、さまざまな企業の方に説明ができるほどになっていました。難しい状況を乗り越えた経験は、これから国際ビジネスの世界で勝負できるという自信につながりました。

なるほど、西井さんも海外での苦しい体験を乗り越えてひと回りも、ふた回りも成長することができたのですね。
お二人が今回の経験で得られたものを教えてください。

そうですね。社会の厳しさや、やりがいを体感できただけでなく、国際インターンシップを通じて、就職活動に対する意識が変わったと思っています。私も1年次に留学をしたのですが、その留学の経験や、体育会陸上競技部での活動などから、スポーツメーカーに就職したいと考えていました。しかし、国際インターンシップに参加したことで、グローバルに活躍できる仕事は他にもたくさんあるということに気がつき、視野が広がったと思います。

私も視野が広がりました。私が接したインドの人々はとても親切・真面目で、家族を大切にする素敵な方ばかりでしたので、インド人へのイメージが大きく変わりました。相手を尊重し、理解しようとする姿勢の大切さを教えていただきました。
また、世界を舞台に働く日本人とお話をする機会を持てたことは大きな刺激になりました。インドに行ったらできるだけたくさんの駐在の日本人に話を聞こうと名刺を100枚ほど用意していったのですが、全然足りないくらい多くの方のお話をうかがうことができました。

企業の視点から考える

さて、本日は教育後援会の会長、副会長であり、経営者としても活躍されている村岡氏、江﨑氏にもお越しいただいております。お二人には企業の立場からご意見をいただきたいと思います。まずはお二人の学生のお話を聞いてどのような感想をお持ちになりましたか?

私が学生の頃にはインターンシップという制度が確立されていたわけではないので、お二人が素晴らしい体験をされたことをとてもうらやましく思います。

先ほど西井さんがおっしゃったように国や地域によって英語のなまりが違い、電話でのやりとりとなるとさらにわかりにくくなります。また、専門用語を知らなければ、言葉が聞き取れても理解できず、異なる文化で生まれ育った人々とは価値観や考え方も異なります。国際ビジネスの世界で本当の意味で相手を理解するためには、単に英語力を身につけるだけでなく、自らの教養を磨くしかありません。それを学生の間に体験できたのは大きな収穫でしたね。

教養を高めることが、コミュニケーションを高める…今の江﨑さんのお言葉に深く共感いたします。異文化コミュニケーションとはまさにそういうことなのだと思います。

それから高岡さんのインターンシップ体験も素晴らしいですね。物を売る大変さを実感し、売れた時の感動を味わえる、これこそが就業体験の醍醐味ですね。ぜひこういう体験を他の多くの学生たちにもしてもらいたいですね。

先ほど私の学生時代にはインターンシップ制度が確立されていなかったと申しましたが、近年では多くの企業等がインターンシップ制度を導入しています。それ自体は素晴らしいことなのですが、一つ懸念していることがあって、インターンシップが採用試験の予備選考になっていたり、1日限定のプログラムなどで単なる企業紹介の場になっていたり、学生の目線で考えていない企業等も多く見受けられます。もちろんさまざまな事情があるのでしょうから、それらをすべて否定するわけではありませんが、企業等の論理を学生に押し付けるのは本来の主旨から外れているように思います。

実は私が志望していた外資系企業の一つに、インターンシップに参加した学生しかエントリーできないという企業があって、泣く泣く断念したことがあります。

それは悔しかったでしょう…。インターンシップとは名ばかりの予備選考にしてしまっては、学生にいったいどのようなメリットがあるというのでしょうか。

残念ながら外資系企業ですらそのような名ばかりインターンシップは実在しています。しかし、インターンシップの本来の主旨としては、学生にとって社会を学ぶ機会となることはもちろん、企業等にとっても若者の考えを知る勉強の機会にしたいところです。弊社では海外からのインターンシップ生を受け入れているのですが、外国人から見た日本の企業の課題を指摘してもらうようにしています。すると社員では気づかないような視点から指摘を受けることが多く、企業にとって新しい改善のヒントを得られる素晴らしい機会になっています。学生と企業の双方にメリットがある関係を構築することが本来のインターンシップのあるべき姿だと思っています。

関西大学のインターンシップとは

なるほど、受け入れ企業側の問題もいろいろとあるわけですね。キャリアセンター所長の笹倉先生はどのようにお考えですか?

村岡会長、江﨑副会長がおっしゃる通り、企業ばかりにメリットがあるようなインターンシップでは学生を派遣する意味がありません。そのため、関西大学では学生に紹介するインターンシップを慎重に選んでいます。また、インターンシップに参加した学生には事前の研修や、事後の実習報告会への参加などを課しており、条件を満たした学生には単位も与えるようにしています。単なる就業体験をするだけではなく、学生が自分の将来に活かせる体系的なプログラムとなっておりますので、ぜひ積極的に参加してほしいと思います。
また、先日も企業の方をお招きしてお話をうかがったところ、まさに日本と海外とのインターンシップの違いに対する指摘がありました。日本では期間中に一定のカリキュラムをこなすプログラムが多いのに対して、海外では高岡さんが体験したようにいきなり営業を体験させるなど実践重視のカリキュラムが多い傾向にあります。どちらが優れているというわけではありませんが、国際インターンシップは世界を知る絶好の機会になるので、これからも拡充していきたいと考えています。

今後のあり方を考える

教育後援会ではキャリアセンターで実施している国際インターンシップをはじめ、さまざまなプログラムに助成しており、学生からはたくさんの感謝の言葉をいただいております。そこで村岡会長にお聞きしたいのですが、学生の就職活動について、教育後援会はどのような役割を果たせるとお考えでしょうか。

大学教育は就職がすべてではありませんのでさまざまな責任を果たさなければなりませんが、こと就職活動という面では私たち教育後援会が果たせる役割も大きいのではないかと考えております。国際インターンシップのように、すべての学生に開かれた公平なプログラムには積極的に支援を続けていきたいと思っています。そして、それらに参加した学生が自分の体験を後輩に伝える、あるいは大学にフィードバックするなどしてよりよいプログラムへと成長させてほしいと願っています。

国際企業の日本法人のリーダーとして活躍されている江﨑副会長には、企業の視点から国際インターンシップの今後のあり方について、ご意見をいただけますでしょうか。

先ほども申し上げた通り、企業にとってもメリットがある制度にすることが大切だと思います。例えば、世界的に見ると経済大国である日本のビジネスパーソンは効率的であると思われているようですが、実際に外国人が日本で働くと残業の多さに驚かされるようです。国際インターンシップなどによって外部からの指摘を受けることで、日本のビジネスパーソンの働き方改革につながれば、企業等にとっても、日本社会にとっても大きなメリットになるはずです。これは何も国際インターンシップに限ったことではなく、国内のインターンシップにおいても、受け入れた日本の学生から意見を募ることで、企業等の改善点のヒントは得られるはずです。そういう考え方が広がって、学生も、企業等も、大学も、オールウィンの関係が築いていけたら素晴らしいと思います。

本日は皆さんお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございました。

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