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弁論大会

2023年02月17日 UP

各クラスから選ばれた代表の弁士20名が、全校生徒の前で自身の思いや主張を発表しました。最優秀賞1名、優秀賞4名が選ばれました。

最優秀賞に選ばれた「行ってきます」の原稿をご紹介します。

 

 先日、近所のコンビニで「すずめの戸締り」という映画のポスターを見かけました。扉の前に立つ少女、その横に書かれていたのは「行ってきます」のキャッチコピー。なんてことはない言葉ですが、物語の重要なキーワードなのでしょう。

 「行ってきます」皆さんは、出かける時、家族にその言葉を言っていますか?僕は毎朝学校に行くときに母に言います。母は「行ってらっしゃい」と返してくれます。何も意識することなく交わす習慣です。けれど、言わなければ少し心残りのようなもやもやした気持ちになるのだから不思議です。

 昨年、僕は父方の祖父を亡くしました。ほとんど会ったことのない人だったので、お通夜で祖父の死に顔を見ても特に悲しいという感情は湧きませんでした。告別式の後、無機質な火葬場で骨になった祖父を見た時、この世からいなくなるということはこういうことなんだなと実感しました。僕の横にいた祖母は泣いてはいませんでした。でも、祖父の骨の顔辺りをのぞき込むと「いつも行ってくると言わんと出ていく人やったもんなあ。今度も何も言わんといきはったわ...。」とぽつりとつぶやきました。普段通り何も言わず永遠に旅立った祖父を少し咎めるような静かなつぶやきでした。涙を見せない祖母の寂しさと悲しみが伝わってくるようでした。

 「行ってきます」という言葉は日常の挨拶だけでなく、多くの意味とエネルギーを持っていると思います。進学・就職・結婚などで故郷や親元を離れる時の未来への希望や感謝を含んでいたり、何かに挑戦する時の未知の事柄・場所へ向かう高揚感であったり、シンプルでありながら多様性のある言葉です。僕たちはこれから先、幾度となくその言葉を口にすることでしょう。そして、そこにはそれを受け止めてくれる存在があります。「行ってらっしゃい」と送り出してくれる存在があるのです。それは人に限らずペットかもしれません。離れて暮らす家族の写真かもしれません。今の時代ではスマホのメッセージも有り得るでしょう。いずれにせよ、自分の思いを託すものが存在するということです。それは平凡だけれど確かに幸福な瞬間なのだと気づきます。

 しかし、どこでもこのような穏やかで幸福な挨拶を誰もが出来るわけではありません。今、世界では紛争が続いています。ウクライナとロシアの戦争では軍人のみならず、多数の民間人が兵士として戦場に行かねばならない事態にまでなっています。彼らは家を出る時、「行ってきます」と愛するものたちに言っているはずです。でも、それは旅立ちの言葉ではなく、戦場で死ぬかもしれない覚悟の言葉なのです。それと同時に生きて再びここに戻るという決意の言葉でもあると思います。戦争なんてなかったら、世界が平和だったなら、そんな覚悟も決意もいらないのです。そんな悲しい「行ってきます」を言うことも聞く必要もないのです。今日も世界のどこかでその悲しみが繰り返されていることを僕たちは忘れてはなりません。

 人生において、転換期はいくつもあってどの扉を開くのかそのたびに選択を迫られるでしょう。僕はその時持っている自分の力の全てで前へ進まなければなりません。今はまだ未熟で強い意志も決断も出来ない僕だけれど、選択のその時が来たら、潔く堂々と「行ってきます」と言える自分になって人生という扉の前に立っていたいです。

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